#9-2
教室の引き戸を開いた。
室内の空気が新たな道を見つけ、そこをめがけ流れを作りだした。
その流れに逆らうように立ち尽くす俺に、空気の流れは淡くフルーティーな香りを鼻腔に残していった。
室内に入った時、一番先に目についた光景は1人の美少女の姿だ。
長い艶のある黒髪が揺れ、整った顔立ちと透明感のあるきめ細やかな肌がレースのカーテンで柔らかくなった日射で彩られ、静かに文庫本をめくるその姿に俺は呼吸をするのを忘れる程、魅入ってしまった。
彼女が文庫本をゆっくり閉じて机に置く。
顔をこちらに向けた時、あまりに綺麗だったので息をのんだ。
「平塚先生。何度も言っていますが、入室の際はノックして入って頂けないでしょうか?」
その声で俺は現実に引き戻される。
彼女の履いている上履きの色を見る。
どうやら2年生のようだ。
おいおい2年生……美少女揃いすぎだろ。
この人が大ボスかよ。
「悪い悪い」
反省する様子は無い様な口調で軽く平塚先生は謝る。
「それが悪いと思っている人の態度だと思えないのですが」
「まぁそう言うな雪ノ下、ノックしてお前が返事をした試しがないだろ?」
「先生が返事をする前に入ってくるんですよ」
どうやら彼女は雪ノ下と言う名らしい。
彼女の視線が俺へと切り替わる。
ゾクッと冷ややかな感覚にとらわれた。
「平塚先生、彼は?」
彼女の言葉が耳に届く。
凛とした声色は彼女の姿にふさわしく思えた。
「比企谷八幡です。宜しくお願いしましゅ」
緊張が口調にも現れてしまったらしい、かみかみな口調で自己紹介をしてしまった。
やばい、もう帰りたい。
「比企谷……」
彼女はそうつぶやくと少し目を見開いた様子だったが、すぐに元に戻った。
なんだ?新しい無言語コミュニケーションか?
それとも俺の存在感を感じ取るには何かしなきゃ見えないとか?
俺は幻のシックスマンかよ。
いや、おれはエイトマンだ。
出番こなくね?万年補欠じゃねーか。
「私は雪ノ下雪乃、2年生よ」
『2年生』という部分を強調した感じだとどうやら年上を敬いなさいと遠回しに言ってるように感じられた。
まぁ、年齢的には変わらねぇんだけどな。
「何か不服でもの申したいって表情をしているわね。どうぞ、学年が下といえど言論の自由は保障されてるわ。叩き潰すだけだけれど」
俺の考えを悟ったのか雪ノ下先輩は不快気に眉を寄せこちらを見返してくる。
先ほどまで俺が彼女に感じた清純なイメージとはかけ離れた言葉を向けられ、俺の中の彼女へのイメージが崩れ去る音がした。
っふと太宰治の「グッド・バイ」でも似たような場面があったことを思いだした。
声色が悪いせいですごい美人が台無しって表現だったか?
しかし目の前の雪ノ下先輩は声色は悪くないのだ。
口が悪い。
「雪ノ下、彼は依頼人だ。虐めてやるな」
うまい具合に平塚先生が割って入ってきてくれた。
「依頼人……なるほど。では彼はこの部がどういう部かご存じなのでしょうか?」
「そこまでの説明はしていない。お前に任せる」
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