>>> 人よ、創世の理に従え(3)
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喧騒が煩わしい。
悲鳴を上げて逃げ惑う人々を視界に入れず、エルタはじっと空を見つめた。
海が発する熱によって立ち込める厚い雲、かの龍自身が生み出す噴煙。それらから産み落とされたかのように姿を現しては地上に落下してくる火山弾を見極める。
遠方から撃ち出されたためか、ある程度は冷めて黒くなっている。それでもその内側は熱く燃え盛っていて、視認が難しくなっている分、むしろ厄介だった。
雨のように無差別に降り注いでいるとはいえ、実際の雨のように密度があるわけではない。一度に千発落ちてくるなどということはないのだ。故に見極めさえしていれば。
ぴく、と柳眉を動かしてエルタは地を蹴った。暴徒化しかかっている人々を鎮めようと震える脚で立ち上がっているキャシーの身体を抱きしめる。
「きゃっ!?」
そのまま横っ飛びに地面を転がる。なるべく全ての衝撃が自分に向かうようにして地面を転がった。
一拍おいて、キャシーが立っていた場所の間近に火山弾が着弾した。
火山弾そのものは脆い。着弾すると同時に砕け散って、中身の溶岩を撒き散らす。瞬く間にカウンターと後ろの建物に火が付いた。
「ぁ…………」
その光景を見たキャシーはエルタの腕の中で力を抜いた。助けられた胸の高鳴りなどどこにもない。ただ、あそこにいれば自分は間違いなく死んでいた。その事実を突きつけられて、呆然とする。
爆風でカウンターから転げ落ちそうになっていた小柄のギルドマスターは、すんでのところでローラが受け止めていた。
先ほどまで彼女に詰め寄っていた人々は慄いて後ずさりし、集会所の出口に向けて逃げ出していく。
ハンターズギルドに縋ってもどうにもならないことを悟ったのだろう。燃え上がる掲示板やカウンターがそれを強く印象付けた。
エリナが必死の表情で、消火用の海水が入った桶をカウンターにぶちまける。
しかし、桶一つ分では火は消えない。まだ細かい火種が残っている。そして、ここは船上よりもはるかに燃え移るものが多い。
炎が再び燃え上がろうとする直前に、素早く起き上がったエルタが穿龍棍を叩きつけた。
黒い稲妻が弾ける。殴りつけた木板は黒い染みが広がり、炎は煙を上げて消え去っていた。
ソナタの水を生み出す大剣ほどではないが、エルタの穿龍棍が秘めるジンオウガ亜種由来の龍属性も炎をかき消すことができる。龍属性はその他の属性に該当するエネルギーを抑えつけることができるのだ。
次いで、カウンターの向かいの酒場にも火山弾が落ちてきた。めきめきと柱や屋根が折れる音と共に、数多くの食器が割れる音が響き渡る。店員のアイルーたちは前もって逃げていたようで、悲鳴が聞こえないのが不幸中の幸いか。
やがて酒場から火の手が上がる。あれは流石に消しきれない。ぱちぱちと木材が焼けていく音を聞き流しながらエルタはまた空を見た。今この瞬間にまた火山弾が降ってきてもおかしくはないのだ。
「……未練など何だの言っておれんな。皆で岩山の避難壕まで行くぞぃ。あそこを目指す者も多いはずじゃ」
重々しくギルドマスターが告げる。ローラとエリナ、ギルド職員たちはその言葉に頷いた。
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