休息
「ほう、ここが現代の茶屋か」
「急に出てきたと思ったら、甘いもん食いたいってのは妖刀の名が泣くな」
「端末よ、我は貴様と影響し合っている。故、貴様もここに来たかったのだろう」
「否定はしねえよ」
休みだからと暇を潰していたら、急に虚絶が出現し甘味処へ案内しろとか言い出した。昨日飯を作らせ家の掃除をさせたことに対する反逆だろうか。まあ俺も食いたいと思う気持ちがあったし、否定しなかったが。
なので田心屋に連れて来たが……実体を持たせた上で、全員に見えるようにしているので迂闊な発言ができない。
「響是津京香という名を名乗れば良かったな」
「そ。手間をかけさせるなよ」
「御意」
そうして無表情と無感情のまま、虚絶は田心屋の扉を開ける。
「いらっしゃいませー」
出迎えるのは小春ちゃん。
しかしこの千年前の亡霊は何を勘違いしているのか。
「頼もう」
……なんて、ぶちかましやがった。
「はい……?」
「頼もうと言った。貴公、頼もう」
「えぇっと、何名様ですか?」
「……どうなっている……? 馨」
「はぁ……二名だけど、席空いてるかい?」
「あっ、馨さん! はい、空いてますよ。でも相席ですけどいいですか?」
話のわかる俺がいたからか、先程までの困惑した表情からパァーッと明るくなる小春ちゃん。子犬みたいで可愛い。
しかし、相席……相席か。大丈夫かコレ。いや、俺が手綱を握ればいい。うん。
「ま、仕方ないことだ。こっちは構わないよ」
「じゃあ、ちょっと待っててください。聞いてきますので」
そうしてトコトコと歩いて行って、しばらくもしないうちに小春ちゃんが戻ってきて案内される。
そうして相席となったが……なった先が、だ。
「渦中の人間と会うとは、これもまた宿痾か。実に呪わしきかな巫女姫。我らは断ち切れぬ鎖の下に集うというわけか」
「……ホント、ごめん。みんな」
「いや、いいんですけど……何故?」
「甘いもん食いたいって」
将臣に芳乃さんに、レナさんに茉子の席。いやはや、なんというか困ったというか……うむ、参ったな。
「表が無いぞ」
「メニューは後から来るよ」
「随分と変わったものだ、服装や慣習が似通っていても本質が異なっている。これも時代か」
千年前の遺物に振り回されて困ってしまう。俺を含めこのバケモノ大和撫子を怪訝な視線で見つめるそんな中、はじめて虚絶の人間態を見たレナさんは興味深々といった様子で尋ねてくる。
「カオル、そちらの女性はどなたですか?」
「我は響是津京香。貴公は……れな・りひてなうあー……? だったか」
「はい。気軽にレナと呼んでください」
「何故、名で呼ばねばらなぬ? 我と貴公は此度、はじめて顔を合わせた。故、親しくもない。慎みを持つがいい。意中の相手に呼ばせる程度こそ、女子らしいというものよ」
「イチューの相手とは、一体なんですか?」
「意中の相手なぞ、意中の相手だが」
「申し訳ありません。わたし、日本語はそれほど堪能ではなくて……」
「恥じることはない。貴公の努力は無価値に非ず。無意味に非ず。誇れ、りひてなうあー」
……こいつこんなキャラだったか?
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