温度
……痛む身体によって意識が浮上する。
不自然な右腕の痛み、反応の鈍い左腕、なんとも言えない息苦しさめいた感覚。
見覚えのある筈なのに見覚えが無い天井。少なくとも自宅ではない。
「……何処だ……?」
弱った身体を布団から起こし、まずは自分の肉体を確認。目立った傷は特に無い。──右腕を除けば。
巻かれた包帯をめくり、様子を見る。裂傷の痕に新しく出た皮膚によってやや変色している。まるで火傷の痕のようだ。これまた放っておけばどうとでもなる類だが、しかし右腕を動かそうにもあまり言うことを聞かない。
いや、動くと言えば動くのだが……動かす度に痛みを伴う。しばらくは使い物にならないだろう。
辺りを見回す。その景色を見て完全に思い出した。朝武家の空き部屋だ。
なんで俺の家じゃない? 虚絶がいるんだから送ったって……しかも服も変えられてるし。血塗れだとまずいのはわかるが、誰がやったやら。
……どうせ虚絶あたりだろうが。
騒ぎ立てていた声は静まり返っている。少なくとも平時と同じだ。虚絶は眠っているのか、うんともすんとも言わない。
頭に違和感を覚えたので左腕の確認がてら触って確かめる。折れた骨も元通り、関節も問題無し。普段なら二日三日跨がないと完治しないが、どうやら寝ている間に燃料でも使って治したのか、すこぶる好調で健康体の腕そのもの。完治している。
ただギャップがあるので、反応がやや鈍いが。
「……頭に包帯?」
痛みも何もないので引っぺがし、近くの窓に映る自分を見て確かめる。結果は当然何もない。勝手に治る程度の浅い傷だったのだろう。
一つため息を吐き、どうしたものかと頭を悩ませようとしたとき、何かを忘れていることに気が付いた。
「……シャワー、浴びよ」
頭が重い。
シャワーでも浴びよう。右腕の傷はほぼ塞がっている。染みることはないだろう。
よっこらせと立ち上がり、バランスが取れずフラフラと歩きながら風呂を目指す。何度か世話になっているので場所自体は覚えているのだ。
しかし、誰もいない。将臣の奴はこっちに担ぎ込まれているだろうから、そっちの対応に────
いや待て。
あいつ、神力を流し込まれてなかったか? 虚絶という制御装置無しで祟りを扱うようなものだぞ? 無事なのか? 死んでないよな? それに茉子は大丈夫だったのか?
……急に怖くなった。
俺が無力だったから、こうなった。誰の所為だと言われたら誰の所為でもないのだろうが、俺は俺を責めなきゃ気が済まない。
兎にも角にも頭の眠気を取り払うのが先決だ。
だから意を決して、脱衣所の扉を開けて──
「あっ」
「えっ」
……全裸の茉子と、目が合った。
「……ごめん」
「……油断し切ってたワタシの落ち度ですから、お気になさらず」
その後。
着替えた茉子に、居間で正座しながら謝罪した。
そんな謝罪はあっさりと流され、茉子はクシャッとその顔を嬉しさと悲しみの混じった表情に変えた。
「でも、本当によかった……心配したんですからね」
「ホント、ごめんな。無茶苦茶やって。けどお前たちが無事でよかった……それで、将臣は?」
ここで尋ねておかないと、間違いなく俺は逃げるだろう。自ら逃げ道を断つべく、死刑を待つ人間のような心情で聞いた。
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