終焉
古い記憶。
朽ち果てた屋敷。
灰色の空。
黒い月。
墓標のように地面に突き刺さる武具。
知らないはずなのに知っている場所。
そこで俺は見たこともない、和装の女と対面していた。
「……ね、私さ。疲れたの」
女は語る。
俺は口も開けない。
「もしも全部が終わったら、私を眠らせて」
そう言った女の顔は嬉しそうで。
「みんな、疲れたみたいなの。だからもう、眠らなきゃ」
あるいは、罪人のようで。
「あぁでも私は地獄に行かなきゃ。螺旋を描いたのは私だから」
それとも──
「……ま、本当に地獄ってものがあればの話だけどね」
そう言って、どこか空虚に微笑む女を見て、俺は何も思えなかった。
「君の記憶を勝手に見ようとして、本当に申し訳ない」
翌朝。
「無論、この最低最悪の行為に対する言い訳は存在しない。よって思う存分罰を与えてくれ。死ねと言えば死のう。殺せと言えば殺してみせよう。無様を晒せと言うならば無様を晒そう。さぁ──」
俺は朝武家で土下座をしていた。
傍には虚絶を置き、死ねと言われればすぐに腹を切れるようにしてある。
「望むる罰を言うがいい。罪を背負う俺を裁くは君の声に他ならない」
「……ええっと、カオル?」
「言葉を紡げ、罰を語れ。俺はその通りに、罪を償おう」
「あの……」
「さぁ──ッ!」
困惑するレナさん。
土下座する俺。
それを微妙な表情で見つめる皆。
「……あのな馨。確かに俺は謝れとは言ったけど、そういうのじゃないと思うんだ」
将臣がそういうが、俺としてはこういうの意外に何があったというのか。
「いわば俺がやろうとしたのは腹を開いて内臓を見る行為に等しい。ならばこそ命を捨てても釣り合いが取れるだろう」
「……なんか、想像してたのと違う」
「馨さん……」
「誰だってそういう謝罪をされたら動揺しますよ」
なーんか好き勝手に言われているが、俺にはそれ以外が思い付かない。
「あの……カオル?」
「なんなりと、罰を与えてくれ」
「罰とかそういうのはどうでもいいのですよ」
「……人の記憶、一生を単なる謎解きの為に覗こうとしたんだぞ?」
「カオルにはカオルの事情があるのは知っています。掃除屋でしたっけ……? とても、重圧のかかる立場と仕事でしたよね」
「厳密には殺し屋だけどな。それで?」
レナさんはまるで俺を労うように。
「あなたはあなたとしてやるべきことをやったまでじゃないですか。頭を下げるほどではありませんよ」
なんて、笑って言ってのけた。
「だけど俺は……!」
「わたしが仕事の為に命ある魚を裁くように、カオルも仕事の為にわたしの記憶を見る必要があった。ただそれだけのことですし、言ってくれれば見せましたよ? 水臭いです」
「……そういう言い方はズルい」
「時に心は冷やして動くものだと、オカミから教わりましたので」
ああもう、なんか滅茶苦茶だ。
土下座し続けるのもバカらしくなって胡座をかいて、微笑むレナさんに対する負い目と羞恥心から視線を逸らしてしまう。
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