ハーメルン
Muv-Luv Alternative ~take back the sky~
5話 : Mutual intelligibility_
誰と誰が、そこに居た。
誰と誰が、ここに在る。
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武が起きてまず見たのは、覚えのない天井の色だった。
「ここ、は?」
武は寝ぼけた頭のまま、ぼうっと天井を見続けた。木じゃないということは、日本の部屋ではない。
しかし、ここ最近見ていた天井でもない。無機質なのは一緒だが、材質が違って見えた。
周囲に漂っている匂いまで違っていた。訓練用の軍服に残った汗臭さは微塵も感じられず、漂ってくるのは薬品の匂いだけだ。
武は一度だけ、この匂いを嗅いだことがあるのを思い出した。確か、自分が怪我をした時のこと。
その時に案内されていた場所に重なる。武は、そうして、ようやくここが医務室だということに気づいた。
基礎訓練を初めて一週間ぐらい経過した時に起こったのだ。
武は訓練の厳しさに耐え切れなかった訓練兵が最後に暴れ、それに自分が巻き込まれ殴られた事を思い出していた。咄嗟のことだったので避けきれず、まともに殴られた拍子に転び、擦り剥かれた膝を消毒するためにここにきたのだ。
担当官が不在だったため、教官に手当をしてもらったのを覚えている。
そうだ―――教官。ターラー教官。鬼のような教官で、でも厳しいだけではない教官。
まるで重ならないのに、どこか幼馴染の母に似ている人。
優しく、怒る時は厳しい純夏の母親である鑑純奈さん。武は、母さん、ってふざけて呼ぶと凄いうれしそうにしていたあの人と、何故かどこか重なる鬼教官のことを思い出していた。
常時というか訓練時もそれが終わった時も厳しい教官は、その点でいえば違う。
―――でも食堂で、俺たちを励ましてくれた顔は同じだったと。
武はそこまで思い出して。そして、自分が先ほどまでどこに居たのかを思い出した。
「………っ、そうだ、BETAは!?」
戦っていたはずで、帰投した記憶もない。
なのに何故自分はここに居るのか、武は必死に思い出そうと記憶を辿っていくが、思い出せない。
覚えているのは、戦車級に取りつかれ、情けない悲鳴を上げた後に要撃級の腕が眼前に迫っていた光景だけだった。
(そこから先は目の前が真っ白になって………駄目だ、思い出せない)
いくら頑張っても、そこから先の記憶は暗闇に閉ざされているかのように浮かんでこなかった。
筋肉痛も思考を邪魔する。いつもの比ではない痛みが全身にはしゃぐように飛び回っているのを武は感じた。しかし、五体は満足で。だから自分は誰かに助けられたのだと、武は結論づけた。
その時入り口のドアが、がらりと開いた。
ノックもなく部屋に入ってくる。その人物を見て、武は安堵の息をついた。
「なんだ、親父かよ」
「………目覚めて第一声がそれか、バカ息子よ」
心配していた息子になんだ呼ばわりされた父こと白銀影行は怒った。
影行は武が帰って来てから今まで、ろくに眠ることができない程に心配していたのだった。
それを、起きるなりなんだ呼ばわりとは、と。しかし彼の中に沸いた怒りは一瞬で霧散し、次に襲ってきたのは絶対的な安堵だった。
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