第11話 あたしを悩ませた男
「おはよう、鈴!」
「おはよう、一夏!」
あたしの頬が自然と緩む。
「おはよう、鈴」
「おはよう、変態」
あたしの拳が自然と漲る。
「……お前はいつになったら俺の名前を呼んでくれるんだ」
「アンタがアホな事言わなくなったら「あ、パンツくれよ」それをヤメろって言ってんのよッ!!」
前もって準備していた拳を放つも、簡単に捌かれてしまう。
「フッ……惜しかったな、鈴」
「ぐぬぬ…!」
中国からこの小学校に転校してきたあたしに、最初に声を掛けてきた奴。日本で出来た初めての友達。何やらしたり顔で雑学を披露している物知りな奴。中国人のあたしを思っての事か、最近はもっぱら三国志の話をする気遣いの出来る奴。
……その気遣いを、どうして挨拶でも出来ないのかホント分かんない奴。その名は主車旋焚玖……にくめない、あたしの変な友達だ。
.
...
......
転校なんて初めてなあたしは、柄にもなく緊張していた。
ましてや、同じ中国ではなく外国だなんて、正直当初のあたしからしたらアウェー感ありまくりの場所だった。
教室に入って担任から紹介された時も、ドキドキしっぱなしだったと思う。空いているカドの席へ座るように言われたあたしは、周りの目に少しビクビクしながら座ったんだ。
隣りの席は男子。出来れば女子の方が気楽だったのにな……と思っていたあたしに、ソイツは話しかけてきた。
『ようこーそ、にぽーんへ。かーんげいするーぜ、凰』(中国語)
それは中国語だった。
まさか日本の学校で日本語ではなく、中国語で話しかけられるとは夢にも思わなかったあたしは、目をパチクリさせてソイツを見た。
なんかドヤ顔していた。
「す、すげぇぜ旋焚玖! お前、中国語も話せるのかよ!?」
「……フッ…」
違う男子の言葉を受け、ますますドヤ顔になっていた。
「発音めちゃくちゃよ? あと、普通にあたし日本語話せるから」
「そ、そうか…………そうか…」
見るからにしょんぼり顔になって俯かれてしまった。っていうか、しまったのはあたしの方だ。せっかく気を利かせて声を掛けてくれたのに、しかもわざわざ中国語で話しかけてくれたのに……あ、謝らないと…!
「ご、ごめんなさい、あたし…!」
「気にするな」
謝るあたしを手で制してくる。
なによ、普通にいい奴じゃないの。こんないい奴に無遠慮な事言っちゃうなんて、ホントあたしってバカ…!
「あ、あの、あたしの事は鈴でいいから!」
「分かった鈴。俺の名前は主車旋焚玖。好きに呼んでくれ」
「ええ! せんた「ああ、あとパンツくれ」……は?」
聞き間違いかしら?
聞き間違いよねぇ、ないない、幻聴よ幻聴。
「えっと……じゃあ、あたしはアンタの事はせん「パンツくれ!」早口で言っても聞こえてんのよッ!!」
「ほぐぅッ!!」
あたしの拳がコイツの頬にめり込んだ。
あ……またやっちゃった。けど、あたし悪くないわよね? ね?
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