第11話 あたしを悩ませた男
「ん、まぁな」
「なら、どうして? どうして自分の顔なんて殴ったのよ?」
「……知らん」
「はぁ?」
「俺にも分からん! 以上ッ!」
「い、以上ってアンタ……」
分かんない訳ないでしょ!
自分でした行動なんだし、絶対コイツには理由があるに違いないわ…! 理由……コイツがわざわざ自分を傷つけてみせた理由……も、もしかして…!
「もしかして……あたしにこれ以上、アイツらの矛先を向けさせない、ため……?」
お、驚いた顔してる……あたしが正解にたどり着かないと思ってたのね…!
「バカにしないでよ? あたしだってそれくらい分かるわ! そうなんでしょ!?」
「……そうだよ」
「なんか間があったんだけど?」
「気のせいだ」
「ふーん……」
何か前にもこんなやり取りしたような……気のせいかしら。それともう1つ、気になっている事がある……それはコイツが言った事。
『俺の女に何してやがる』
こ、これってどういう意味…?
そういう意味って事、なの…?
コイツ、あたしの事が好きだったの…?
そんな素振り今まで全然……ハッ……! 素振り、あった…! コイツ、毎日毎日あたしにパンツくれって言ってくるじゃない! それってやっぱりあたしが好きだからなの!? そう考えるとしっくりきちゃうじゃない!
「おう、鈴、さっさと教室戻ろうぜ」
「え、ええ」
聞くタイミング、逃しちゃった。
あたしはどうしたら良いんだろう……あたしは……。
あたしはこの日から、コイツの事をちゃんと旋焚玖って呼ぶようになった。
.
...
......
旋焚玖があの言葉について触れる事はとうとうなかった。あたしもあたしで、自分から聞いたら負けたような気がして聞かなかった。
旋焚玖とあたしと一夏。
何だかんだ、あたし達は3人でよく居たと思う。それは中学に上がっても同じだった。新しい友達がそこに増えただけ。
旋焚玖がバカやって、一夏がフォローして、あたしも皆も笑って。ずっとそんな日々がこれからも続くと思っていたけど……2年生の終わりに、あたしは中国へ帰る事になった。
「……旋焚玖、話があるの」
中国に帰る前、あたしは旋焚玖を呼び出した。
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