ハーメルン
|剣士《The Fencer》だが、それだけじゃない
再戦………………
迷宮攻略を行った日から5日が経過していた。
そしてここ、ハイリヒ王国王宮内で召喚者達に与えられた部屋の一室にて八重樫雫は暗く沈んだ表情で未だに眠る親友を見つめていた。
あの後、宿場町ホルアドで一泊し、早朝には高速馬車に乗って一行は王国へと戻った。とても迷宮内で実戦訓練を続行できる雰囲気ではなかったし、無能扱いだったとは言え勇者の同胞が死んだ以上、国王にも教会にも報告は必要だった。
それに厳しくはあるが、こんな所で折れてしまっては困るのだ。致命的な障害が発生する前に、勇者一行のケアが必要だという判断もあった。
雫は、王国に帰って来てからのことを思い出し、香織に早く目覚めて欲しいと思いながらも、同時に眠ったままで良かったとも思っていた。
「はぁ、そこまで思い詰めた顔をするでない。ここは儂に任せてお主はちと外に出て心を落ち着かせい。」
そんなことを思っていたら部屋にいるもう1人が声を掛けてきた。
「そんな事言われても…………貴方も何か食べてきたらいいじゃない。貴方、この5日間ずっと飲まず食わずでそこから1歩も動いてないじゃない。餓死しても知らないわよ涼愛。」
「それはそうじゃろう。香織は想い人が行方不明となったことによるショックで眠っておる。その要因をつくった儂の落ち度じゃ。南雲も恐らく落ちてからも飲まず食わずでおるじゃろうし…これは儂の罪滅ぼしじゃし、香織に打たれる覚悟もある。故に香織が目を覚まして儂を罰するまでここから動く気はない。」
扉付近に王宮に帰還してから1度も動いてない涼愛は誰がどう見ても痩せこけていた。
雫は涼愛を心配して忠告をする。だが、確固たる意思で微動打にしない涼愛。
「雫よ、汝は香織が眠ったままで良かったと思っておるじゃろうが、儂は真実を曲げずに話す。香織を試すという面もある故に止めるでないぞ。」
真実とは、香織が眠る5日間の王国側の言動を平野から聞いており、それを偽ることなく香織に全てを話す。
この場では関係無いことだが、クラスメイト達は精神的なショックなどで籠り気味である。
特に檜山なんかは大きいだろう。
なんせ、涼愛に触れたら発動する転移系トラップであることを言われたのにも関わらず触れて、あの様な窮地に陥れた挙句、南雲を殺した(ことになってる)のである。
周りからは軽蔑の視線を向けられていたたまれなくなり部屋に籠りきりだ。出入口にはアランという騎士が常についている。
「あなたが知ったら……怒るのでしょうね?」
話を戻すが、あの日から一度も目を覚ましていない香織の手を取り、そう呟く雫。
医者の診断では、体に異常はなく、おそらく精神的ショックから心を守るため防衛措置として深い眠りについているのだろうということだった。故に、時が経てば自然と目を覚ますと。
雫は香織の手を握りながら、「どうかこれ以上、私の優しい親友を傷つけないで下さい」と、誰ともなしに祈った。
その時、不意に、握り締めた香織の手がピクッと動いた。
「!?香織!聞こえる!?香織!」
「ぬっ?」
雫が必死に呼びかける。すると、閉じられた香織の目蓋がふるふると震え始めた。雫は更に呼びかけた。その声に反応してか香織の手がギュッと雫の手を握り返す。
儂は閉じていた左眼を開けて2人の行く末を見守る。
そして、香織はゆっくりと目を覚ました。
「香織!」
「……雫ちゃん?」
ベッドに身を乗り出し、目の端に涙を浮かべながら香織を見下ろす雫。香織はしばらくボーと焦点の合わない瞳で周囲を見渡していたのだが、やがて頭が活動を始めたのか見下ろす雫に焦点を合わせ、名前を呼んだ。
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