第二話 不老不変
記憶を得てからリゼットが真っ先に行ったのは戦闘力を上げる修行であった。
この世界はドラゴンボールの世界、となれば物を言うのはとにもかくにも戦う力だ。
格闘技の経験などリゼットにはなかったが、それは実の所大した問題ではない。
確かに技術は大事だろうが、それよりまずこの世界は基礎スペックが強さのほとんどを占める。
格闘技の経験などなかろうと戦闘力に大きな開きがあればそれだけで勝てるし、何よりリゼットの記憶が正しければフリーザや魔人ブウなど、明らかに己のスペックのみで戦っている輩が大勢いる。
サイヤ人だって格闘技の経験などあるかどうか怪しいものだ。
恐らくはほとんどが実戦の中で各々が見出した野生の獣染みた本能のままの体術だろう。
無論それは戦闘種族だからこそのものであり、地球人であるリゼットが真似しようと思えばどれだけの年月がかかるか分からない。
しかし、それは後で身に付ければいい。
何よりもまず、今は基本的な体力や腕力、敏捷さを身に付ける事こそが優先される。
強さを上げる当てはやはり記憶の中にあった。
それは『重り』だ。
ドラゴンボールの修行において基礎能力を上げるならば重りは決して無視できない。
少年時代の孫悟空の亀の甲羅に始まり、神様から貰った重い胴着、十倍重力、百倍重力……身体に負担をかける事で、軽くなった時の強さを上げる。
なるほど、理に適っている。現実でも使われている修練だ。
マラソン選手が高山の上でトレーニングしたり、ボクシングの選手が足に重りを付けたりなどは決して珍しい事ではない。
もっとも十倍重力なんてものはまさにこの世界だから可能なトンデモ修行であり、元の世界でやれば普通に死ぬだろう。
血液が脳に回らないのは当たり前。恐らくは細胞も異常をきたし、強くなるどころではない。
しかしリゼットはそれを思考から除外した。
きっと物理法則そのものが違うのだ。世界が違うのだから元の世界では、などという仮定に意味などない。
まずは自作のバンドを作り、そこに鉄を仕込んで手足に付ける事から始めた。
裁縫は幸い得意だ。
鉄を入れる専用のポケットも付け、慣れるにつれて少しずつ重りを追加した。
靴も重くしてみたり、服に縫い付けてみたり、とにかく出来そうな事は出来るだけやった。
リゼットにとって幸運だったのは、ここが辺境の田舎であり、男女関係なく体力が求められていた事だろう。
主な仕事は畑仕事に森林採伐。斧を振って木を倒すあれだ。
童話などでは池にボロい斧を落とせば神様が金の斧をくれるが、勿論そんな事はこの世界でもない。
そんな事情もあり、リゼットの修行も体力と腕力を上げる為のものとして普通に黙認してもらえた。
都会だったらこうはいかない。母親に大目玉を食らうところだ。
畑仕事も素手で行い、最初こそ苦労したが慣れるにつれて鍬などの道具を持った大人よりも早く畑を耕せるようになった。
一年経つ頃にはバンドが物足りなくなってきたので、外にいる間は岩を背負う事にした。
常に岩を背負って歩く岩少女とはなかなかにシュールな光景だが、人は慣れる生き物だ。
最初こそ奇異の視線を向けられたものだが、いつしか村の人々もリゼットの姿に何も言わなくなり、岩娘という渾名だけが定着した。
順応早いな、この世界の人々。
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