美しい友
「シャア! オラァ!!! I'm win!」
不毛な争いを始めて、少し。倒れ伏すラクシェと、すぐ横で拳を突き上げ咆哮する祐一の姿があった。どうやら決着が着いたようだ。
自分よりも一回りも二回りも大きいラクシェを下し、勝鬨を上げる祐一。そんな巨馬に勝つ祐一も大概だが、「そもそも馬と戦うな」ここに、彼の幼馴染が一人でも居れば、そうツッコミを入れただろう。
祐一に負け、悔しげなラクシェ。その瞳は、祐一への怒りで染め上げられている。彼らの争いはまだまだ続きそうである。
パルヴェーズが戦いの終幕を見計らった様に、近づいて来た。
「終わった様じゃのう。であれば、早速出立するぞ。化身がいつ何時、暴れるかも分からぬ。あまりもたもたする訳にはいかぬからの」
「えっ!? た……タイム……! ちょ、ちょっと休憩させてくれよ、パルヴェーズ! 今さっきまで、全力疾走して、そんで殴り合ってたんだ! 流石に体力の限界……!」
「ヒィン!」
泣き言を言う祐一に、「右に同じ!」と言う様に声を上げるラクシェ。如何に最高峰の能力を持っていようとも、限界はある様だ。
そんな一人と一匹に、パルヴェーズは「勝手に戦い始めたのは、おぬしらじゃろう……」と極寒の視線で応じた。
顔が引き攣る、祐一とラクシェ。
(パルヴェーズが、スパルタだ……。まあ、悪いの俺達だけどな!)
───ザッザッザッ。
パルヴェーズは、もう歩き出していた。
慌てて追う祐一とラクシェ。この光景もまた、ここ2日の間、よく見られる光景でもあった。
旅路を急ぐパルヴェーズ。
なぜ気儘な旅を行く彼が、急ぐようになったのか。
祐一はその理由を、思い出していた。
○◎●
バンダレ・アッバースを出て直ぐ。
馬上で揺られる二人の姿があった。巧みな鞭さばきで、悍馬でもあるラクシェを操るパルヴェーズ。
対して、乗馬すら初めてな祐一は、前に座るパルヴェーズに引っ付き、股できつく馬の背を挟み、ようやっと人心地付けていた。
安定した体位を確保し、やっと余裕が出来た祐一は、手持ち無沙汰になってパルヴェーズに話し掛けていた。
「パルヴェーズって、馬にも乗れるんだな……。うぅむ……。脚も早いし、草笛吹けるし、色んな言葉喋れるし、道も良く知ってるし、妙な力も持ってるし。ホント、パルヴェーズって多芸だよなぁ」
多芸で済ませて良いのか? 一瞬迷ったが他にいい表現が思い付かなかったので、そう褒め称えた。
パルヴェーズが言う『化身』って奴に関係があんのかなぁと、ちょっとした疑問が生まれたが、取り敢えず流す。
「ふふ。我はおぬしら定命の者達と違い、永い時を生きておるからのう。それ故、多くの技能を有しておるのは、道理じゃろう。それに我は、『鋼』に連なる英雄。武術は元より、馬術の扱いに長けておる事もまた、道理じゃ」
「『鋼』に連なる英雄……?」
「うん? 『鋼』の英雄か? ……まあ、そうじゃのう……。己を剣と為し、武功を飾り、あらゆる英雄譚や叙事詩に歌われた者達の総称、と言えばよいかのう。まあ、簡単に言えば、偉業を為した戦士じゃな。それ故、武芸に長けた者が殆どなのじゃ。我も例に漏れず武芸に長じておるしのう」
どこか誇らしげに、パルヴェーズは滔々と語る。
ほーん。よく分かってない様子で返す祐一。
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