勝敗の行方
翌朝。まだ夜が明けていない暁時。そんな朝とも夜とも呼べない曖昧な時間に祐一は肌寒さを感じて目が覚めた。
全身を襲う疲労感や痛みは既になく、さっぱりとした気分で起床する事が出来た。まだ覚醒しきっていない頭で、周りを見渡す。
なーんもねぇ……。
薄暗い中でも、まだ残る星明かりで、周りの景色は見えた。見渡す限りの荒野と、少し先にアラビア海であろう海が見える。そんな見慣れない景色に、ここが日本では無いと唐突に突き付けられた気がした。
まあ……今更か。とそこまで考えたところで、我が旅の侶伴が居ない事にふと気付く。見れば焚き火の火も消えており、役目を終えた炭だけが寂しげにあるだけだ。
「おーい! パルヴェーズ!」
叫んでみるが、返事は……無い。おかしい。
んん~? これは……ひょっとして、ひょっとするのか?
意識が完全に覚醒する。祐一は背筋に気持ちの悪い汗が吹き出るのを感じながら、いいや、それは無い! と言い聞かせてもう一度辺りを見渡し、彼の名を呼ぶ。
……だが、やはり答えはない。何処かに居る。……はず。
そう思うが、疑う心が顔を出す。
すぐさま打ち消すように思考をカットする。
だが、すぐに「置いて行かれたんじゃ?」と言う考えが出てくる。──シャラップ!
騙されたんじゃね……? ──シャラッップ!
ホントは連れて行く気なんてなかったんじゃ……? ──シャァァラッッップ!
…………………………。
………………。
…………。
……。
「おお、小僧。もう起きておったか。陽が昇ると同じくして目を覚ますとは、感心感心。やはり一日の始まりには黎明の光を浴び、朝露の雫を感じねば始まらぬのう」
「───わあああ!!!」
「なんじゃ、朝から。騒がしいやつじゃの」
思考の海に埋没していた祐一は、突然気配も無く現れた(祐一視点)パルヴェーズに、それこそ心臓が飛び出るほどの驚いた。
「な。何でもないっ。それよりどこ行ってたんだ? 見当たら無いから心配したぞ」
「いやなに。朝食の準備を、と思ってな。ちょいとそこまで釣りをしておったまで。……ほれ、見よ。なかなか良き釣果であったぞ」
言われて見ればパルヴェーズの手には、木の枝が握られており、その先に十匹ほどの、種類は分からなかったが、中々大きな魚が吊ってあった。
パルヴェーズは手際良くまた焚き火を起こすと、釣ってきた魚を焼き始め、そう間を置かずに焼けた魚の香りが祐一とパルヴェーズの鼻孔をくすぐった。
と、同時にぐぅ~と誰かの腹の虫が荒涼たる大地に響いた。ニヤリと、祐一へ視線を向け、パルヴェーズが笑う。
犯人は明白であった。祐一は誤魔化すように、焼いていた魚の一匹を、むんずと掴み、
「取ってきてくれて、ありがとう! いただきます!」
と、少し語気を強めて言い捨て、貪り食った。パルヴェーズもそんな祐一を見ながらクスクス笑っていたが、やがて焼けた魚を手に取り、口にした。
○◎●
「よし、小僧。腹も膨れた事じゃし、一勝負と行こうでは無いか」
「なんだよ藪から棒に」
朝食を食べ終え、弛緩した空気の中にいた祐一に、パルヴェーズがそんな事を言ってきた。
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