ハーメルン
至高のレビュアーズ
正座専門店 ナザリックの円卓

 今のナザリックはホワイト企業である。
 働きたがりな社員たち、働いてないと不幸と言い切るNPC達をあの手この手で言い包め、休養を、自分の時間を取らせている。仕事時間として定めた九時~十七時以外に働くことを、ナザリックの支配者達は基本認めないのである。
 その為夜半のナザリックは、それも第九階層は、人の気配も人じゃない生物の気配も生物ですら無いモノの気配も無い。
 そのシモベすら配置されていない夜半の『スイートルーム』から、円卓に向け歩く異形の姿が二つある。
 たっち・みーとウルベルト・アレイン・オードルの二人だ。

「見てください、ウルベルトさん。今度の台本は自信作ですよ。あのタブラさんにお墨付きも貰いましたから!」

 白銀の騎士が嬉しそうに隣を歩く黒山羊に話しかける。話しかけられたウルベルトは皮肉気な笑みを浮かべ答えた。

「随分嬉しそうですね、たっちさん。……あらかじめ言っておきますが、俺は付き合いませんよ」
 
 二人はギルメン会議夜の部に参加するために、こうして円卓に向け歩いているのだ。
 夜は大人の時間である。通常の定例会では話せない話題、すなわちサキュバス街巡りの相談をするために、至高の四十一人男性陣は夜な夜なNPCと女性ギルメンに隠れ集っていた。
 二人が指輪の転移を使わずにこうして歩いているのは、ウルベルトがたっち・みーに誘われたからだ。その誘いにウルベルトは嫌な予感を覚えていたが、どうやらそれは当たりだったらしい。

「どうしてですか?ウルベルトさんも、あのお店は高評価だったじゃないですか」

「アンタ、俺のレビューを読んでいないのか?……失礼。とにかく俺は付き合いませんから、他の人を当たって下さい」

「そんな、もうすでに私の寝取り役はウルベルトさんでイメージが固まってるのに。いまさらそんな我儘言わないで下さい」

「これは確実に我儘じゃないだろう。……たっちさんは役にのめり込み過ぎるんですよ。円卓を壊して皆からさんざん責められたのを、もう忘れたんですか?」

「円卓を壊したの、ウルベルトさんじゃないですか?」

「どうしてそこで疑問形になるんだ!?……たっちさんから先に斬りかかってきたんでしょう。忘れたとは言わせません」

「とにかく、一度この台本を読んでみてください。きっとウルベルトさんもその気になりますよ」

 そう言ってたっち・みーがウルベルトに台本を押し付けようとする。だがウルベルトは押し付けられたその台本を無視し、丁度辿り着いた円卓の扉に触れる。円卓の扉を押し開き、そして異変に気付いた。

「……一体……なにが……?」

 ウルベルトが状況を理解できず呟く。
 円卓には当然だが、ギルドのメンバーが腰掛けるための席がある。だがウルベルトとたっちの眼前に映る円卓は、今まで見たことの無い使われ方をしていた。
 三十を超す異形が円卓の席に腰掛けずに、なぜか床に正座をしているのである。黒曜石の輝きを放つ円卓に腰掛けず、それを取り囲み正座する異形の集団の姿は、まさしく異様だった。
 死獣天朱雀が背筋を伸ばした綺麗な姿で床に正座をし、ギルド最強の一角を担う武人建御雷がまるで介錯を待つサムライの様な佇まいで正座をしているのだ。

「フラットさん!一体何があったんですか!?」
 
 たっち・みーが一番近くに居た暗殺者フラットフットに駆け寄りそう訊ねる。問い掛けられたフラットフットは、まるで自身が暗殺されたかのような弱弱しい動きで顔を上げる。

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