ハーメルン
フォフォイのフォイ
掘り起こしたもの・1

 古い日記帳に宿る記憶の悪意に、一人の少女が体を操られる。ハリポタシリーズ第二作『ハリー・ポッターと秘密の部屋』は、そんなホラーじみた話だ。

 トム・リドルと名乗ったその記憶の正体は、まだ本名を使っていた若き日のヴォルデモート。後に魔法界をも手玉に取る話術と魔法で、リドルの記憶は少女の精神を浸食していく。
 そんな物騒な日記を少女に押しつけるのが、ルシウス・マルフォイ。彼はヴォルデモートに託された日記帳の処分に困っていた。その揚げ句、こっそりと他人の荷物に日記を忍ばせた。まさかそんな扱いをされるとは、ヴォルデモートも思わなかっただろう。予想していたら決して彼には預けなかったに違いない。日記帳に隠されていたのは、記憶だけではなかった。分霊箱の魔法で分割された、ヴォルデモート自身の魂の一部も密かに込められていたのだ。
 原作終盤は、「イギリスに点在する分霊箱全てを破壊し尽くさないと、何度ラスボスを倒しても復活するよ」という設定に基づくイベントだった。その辺りは俺も眠くてしっかり観ていない。
 とにかく原作第二作にあたる時期までは、日記がこの屋敷にあるのは当然だった。

 俺は机に開いた日記帳を眺めた。よく思春期の頃の自意識が爆発した思い出を、他人に託す気になれたものだ。ヴォルデモートという人は、ある意味では確かに大人物だった。
 ページに浮かんでいた『ぼくはトム・リドルの記憶です』という文が、ゆっくり消えていった。

 深入りするのは危険だが、少しは試してみたい。俺はペンのインクを付け足した。
『トム・リドルとはどのような人物か。自分は記憶であるとは、どのような意味か』
 書き込んだ文字のインクが紙に染みこんで消え、代わりに書いていない文字が湧いてきた。
『ぼくは、ホグワーツ魔法魔術学校に在学する学生です。正確には、その当時のぼくの意識が日記に転写されたものです。実体はありません。日記帳を通してあなたと会話するだけの存在です。あなたが十二歳ならぼくのほうが年上ですから、色々と相談に乗れると思います。気軽に尋ねてください』
 捲し立てるように、一気にそれだけの文章が浮かび上がった。相手が俺を十二歳だと予想しているのは、俺がケーキの上に十二本の蝋燭が乗った絵を描いたからだ。文字以外の情報も処理できることが分かった。

『そういう設定の架空の擬似人格か』
『本物のぼくは実在しています! あなたからしたら大昔の人間なので、本体はもう死んでいるかも知れませんが』
『今が何年なのか知っているのか』
『分かりませんが、前回この日記帳に書き込まれた時点で、ぼくが生きた時代から随分経っていました。そちらは何年ですか。あなたの名前を教えてくれませんか』
『知る目的』
『会話の糸口にしたくて。あなたのことを何と呼べばいいか教えて下さい』

 どうしようかな、と悩む間に文が浮かぶ。
『前にぼくと会話してくれたのは、ルシウス・マルフォイという若者でした。あなたは彼に近い人ではありませんか?』

 俺は日記帳とペンを持って一階のホールに下りた。そして先祖たちの肖像画の中の一枚に話しかけた。

「お祖父様、アブラクサスお祖父様! お話があります」
 ドラコの祖父は額縁の中から孫を見下ろした。尊大そうな薄灰色の目が、ルシウスとよく似ている。
「何か用か、ドラコ」
「お祖父様はトム・リドルという名前に、お心当たりはありませんか」 

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