ハーメルン
やはり、比企谷八幡は天然あざとい後輩(小町)に敵わない
やはり、比企谷八幡は天然あざとい後輩(小町)に敵わない
卒業式。
高校生活最後の日などとよく言われるが、誤りである。
制度上、三月三十一日までは高校生として扱われる。
よって、卒業式などというものはただの儀式に過ぎない。
クラスメートや同じ学年の人間と並んで座り、校長やら来賓やらの有り難くない話を聞き、卒業証書とやらを授与されて、はいこれであなたは卒業しましたよ、と生徒達に実感させるためのものでしかない。
出ても出なくても、四月一日には高校生ではなくなる。
卒業証書は後からのんびり取りに行っても問題はない。
などと屁理屈を並び立ててみたものの。
なんだかんだ言って特別なものだと、その日を迎えて初めて、比企谷八幡はそう思った。
「あなたが好きよ、比企谷くん。だから、あなたとは友達になれない」
奉仕部の部室は静かだった。
各教室では未だに茶番のような生徒達の馴れ合いが続いているはずだが、まるで、この部屋だけはそうした喧噪から隔絶されているかのように静まり返っていた。
少女、雪ノ下雪乃は、いつも通りそこで本を読んでいた。
いつからここにいたのか。
八幡に気づいた彼女は本を閉じると立ち上がり、窓の前に立った。
そして、明瞭に告げたのだ。
予想していたかといえばよく分からない。
ただ、予感はあった。
きっと、ここで特別なことが起こるだろうと。
的中したことに、八幡は不可思議な思いを抱きながらゆっくりと答えた。
「……悪い、雪ノ下」
少女の瞳が見開かれる。
「俺は、お前と友達になりたい。だから、お前の気持ちには応えられない」
「……あなたは、酷い男ね」
雪乃の口元に微笑が浮かぶまでには数秒の間があった。
「比企谷くん。いいえ、ゲス谷くん」
「わざわざ言い直すのかよ」
「あら、本当のことでしょう?」
ふわりと、楽しげに笑いながら、少女がステップを踏んだ。
窓の外を見て、それからわざわざ振り返って。
「いいわ、友達になってあげる」
「雪の下」
「あなたがいつか後悔するまで、いいえ、後悔してもずっと友達でいてあげる。だから」
あの子のところに行ってきなさい。
半ば命令のような言葉に、八幡は短く答えた。
「ああ」
踵を返して部室を出る。
閉じたドアの向こうから嗚咽の声がかすかに聞こえてくる。
きっと、ここにはもう来ることはないだろう。
☆ ☆ ☆
八幡が向かったのは屋上だった。
特段、彼女に縁のある場所というわけではない。
ただ、二人にとって共通する場所である教室は人で賑わっていて。
ロマンチックだのなんだのと、そういうことを気にすればここになったというだけだ。
大抵のことに意味はない。
ただ、そうしたいと思ったからそうする。
由比ヶ浜結衣とはそういう少女だった。
「ヒッキー、大好き。だからあたしを彼女にして」
胸の前で手のひらを握り合わせ、結衣は真っすぐに言ってきた。
「……えへへ、言っちゃった」
照れ隠しか、ぺろりと舌を出してはにかむのも彼女らしい。
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