EX.姉弟
織斑一夏の指導役として改めて東雲令が認められ。
彼が決然と、目指すべき頂の高さを踏まえた上で、それでもと宣言した後。
「――少し、考えさせて欲しい」
東雲令は無表情のままそんなことを言って、そそくさとどこかへ行ってしまった。
「……考えさせてって、何をだ?」
「恐らくは、具体的にどうやってあの領域……自分と同じ高みにお前を至らせるか、だろうな」
彼女の背中を見ながら、箒はそう言った。
きっとその過程で、自分にもできること、やるべきことがあるだろう。
道の険しさを知った後だからこそ、箒は身の引き締まる思いだった。
「極めて困難な道です。ええ。わたくし……先ほどは驚愕のあまり言葉を失ってしまいましたが、貴方が本気であることだけは理解できます」
「ああ、本気だよ。俺は……やっぱり、誰にも負けたくない」
「ふふ……男の子、ですわね。ですが再三申し上げます、極めて困難であり、また目的を達成できる可能性も低い道です。それでも?」
「――進みたいと、思った。だから俺は進むよ……大体、やること自体は変わらないんだ。俺は俺にできることを、一つ一つ積み上げる。それしかできないからな」
回答は満足のいくものだった。セシリアはフッとクールに笑みを浮かべる。
改めてゴールを意識し、そこに至るまでの道程を確認して、三人の間でそこはかとなく引き締まった空気が出来上がる。
「あらあらまあまあ。さながら、一夏君応援団って感じね」
「やめてくださいよ、そんな。俺だけじゃない……箒も、セシリアも、それぞれにやりたいことがある。そのためにこそ、協力してるんですから」
「ふーん、じゃあチームってことね」
楯無の言葉に、一夏は確かにそうだなと納得感を抱いた。
チーム。四人で協力し合いながら、目的のために邁進する。
「いいですね、チームって響き。俺、好きですよ、そういうの」
「思ってたより体育会系なのかしら、君。気に入ったのなら好きに使いなさいな」
「チーム『アベンジャーズ』とかどうですかね」
「怒られるわよ君」
結構いい名前だと思ったんだけどな、と一夏は頭をかきながらぼやいた。
「じゃ、私はここらで退散するわ。余計なちょっかいをかけちゃった、ごめんなさいね」
立ち去り際、彼女はそう告げた。
「いえ。おかげで俺は、色んなものが見えてきました。正直言うと、楯無さんには感謝してます」
「……感謝、ね。ふふ」
最後に笑みを見せて――我知らず、何故か一夏は背筋がサッと冷たくなったような気がした――楯無は軽い足取りで去って行く。
それを見送って、一夏は大きく息を吐いた。
ドッと疲れたのもまた、事実だった。自分が動いているわけでもないのに、あの一戦を見ていただけで、訓練と同じぐらいの疲労を感じていた。
「最後の最後にとんでもない事態になりましたが、これがあの『モトサヤ』というものですか」
「それ間違ってるぞ。これから先絶対に使うんじゃないぞ」
箒は半眼でセシリアを見た。
「とにかく、収穫が多かったのは事実だ。だからまあいいんじゃねえかな」
思い返す、彼女の剣戟。
眼前で振るわれたら、きっとなすすべなく八つ裂きにされるであろう閃き。
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