鷲尾 須美は勇者である ー 4 ー
本来なら、もっと早くやるべきだったのだけれど……と安芸は内心舌を打つ。しかし彼女に決定権はない。決めるのは大赦の上に居る者達で、自分はあくまでもその決定に従って勇者達をサポートしていくだけ。後はせいぜい上に必要だと思ったことを申請する程度。この強化合宿とて、その申請をしてからしばらく経ってようやく通ったのだ。
安芸は目の前で合宿だーお泊まり会だーと喜んでいる元気娘2人とそれを嗜める2人を見る。どちらが誰かなんて言う必要もないだろう……それはさておき、その光景はどう見ても仲が良い小学生そのもの。しかも自分の教え子。そんな4人の双肩に世界の命運がのし掛かり、背中には四国全ての人間の命が背負わされている。
(本当に……どうして神樹様は私達大人に力を授けてくださらなかったの……)
4人から見えない位置で、子供達を想う先生の手が握り締められた。
(私達を信じて、か)
安芸から強化合宿の旨を告げられた日の帰り道、須美は1人昨日の戦いの際に自分が言った言葉を思い返していた。
5年生の頃は他の3人に殆ど関わることもなく、マトモにお役目を果たせるのかとか、どう他の勇者と関わればいいのかとか、そんな事を考えていた。それが今では自然とあんな言葉が出る程に3人のことを信頼している自分が居た。驚きはある。それ以上に、心地よさがあった。
バーテックスを攻略する作戦の際に銀が飛び込むことになった時、彼女が怪我をする可能性を考慮して須美は作戦に1度待ったを掛けていた。いや、飛び込む役が園子であれ新士であれ、彼女は同じように止めただろう。それでも決行したのは、やはり仲間の言葉があったからだ。
『大丈夫、とは言わないよ。実際危険だからねぇ。それでも、誰かがやらなくちゃいけなくて、銀ちゃんが最適なんだ』
『でも、銀が怪我したら……怪我じゃ済まなかったら!』
『うん……怖いよねぇ。友達がそうなったらって考えると、怖くて怖くて仕方ないよねぇ……でも、勇気を出して信じてみようか』
『信、じる?』
『そう、信じる。のこちゃんの作戦を、銀ちゃんの攻撃を。そして、須美ちゃん自身を』
『私自身も……?』
『いっぱい訓練したんだからさ。自分の努力を信じてあげよう。少なくとも……自分は須美ちゃんのこと、2人のことを信じているよ』
きっとその言葉が無ければ、止まりきらなかったバーテックスに銀が落ちていくのを黙って見ていたか、初動が遅れて止められなかったかもしれない。だが、結果は知っての通り。むしろ心配が勝って仲間を信じきれていなかったハズの自分が、自信を持って信じてと言えた。
(新士君の言葉を、信じて良かった)
仲間を、友達を信じることがこんなにも心地よくて心強いなんて思わなかった。自分を信じてくれる人が居ることが、こんなにも嬉しいだなんて思わなかった。
勇気を出して、良かった。須美は晴れやかな気持ちで家までの道を歩くのだった。
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