大事な質問
時期の見極めは難しい。クロスカウンターの出し時はもちろん、特定の話題を特定の人物に切り出す時は尚更だ。その場の雰囲気、その日の流れ、そして相手の気分の良し悪しなど、慮るべき要因は多種多様だ。
特に交際相手との親密度を正式に上げるとなると、猶更注意が必要になってくる。
一応卒業後に互いの親との顔合わせはしたし、互いに好印象を残せはした。だが、あれ以来全員揃っての顔合わせはできていない。予定の擦り合わせはいつも以上に難しくなってきているし、何より夫婦というものは足並みを揃えて行動を起こすものだ。自分一人で話を進めるような身勝手な事は出来ない。
はやる気持ちを抑えられずに小箱に納まった例のアレも、ベッドサイドテーブルの上げ底になった上段の引き出しにしまったまま二年半が経過した。サイズも今まで二回直してもらい、今日で三度目となる。
「人間関係って難しいな・・・・・・・」
そう呟いた矢先、スマートフォンが震え、セットしていた十分前のアラームが鳴る。アポを欲したヒーロー事務所との商談があるのだ。
足音が近づいてくるのに気付き、立ち上がると深々と頭を下げた。
「おはようございます。MMインダストリーズのコスチュームデザイナー兼コンサルタントの緑谷です。」
「ギャングオルカ事務所に所属するサイドキック一同の代理として選ばれて参りました。八手奥人と申します。本日はよろしくお願いします。」
名刺の交換が終わり、向かい合って席に着くと、出久はカバンの中から白紙と事前に完成させていたデザインの紙束を取り出した。
「お電話でサイドキックの皆様のコスチュームを改良したいと伺いました。具体的には粘着弾射出装置とスーツの複合的な耐久制度を見直したいとの事ですが、お間違い無いでしょうか?」
「はい。粘着弾射出装置自体に問題があるわけではないのですが、異形系の『個性』を持ったサイドキックにはどうにも扱いづらいらしく、どうしてもワンサイズフィットというわけにはいかないのが現状です。スーツの方はもちろん陸でも使えますが、シャチョーは『個性』の関係上水場の方が立ち回りやすいのでどうしてもそちらを想定した造りになっているんです。着心地の点は問題無いのですが、防御面はどうしてもケブラー繊維程度の強度しか・・・・・・・」
ふむふむなるほど、と出久は頷きながらペンを白紙に走らせた。
「確かに、闇ブローカーが違法サポートアイテムを売りさばいている昨今、防御面は確かに懸念すべき事項です。コスチュームにプレート状の装甲などを入れると言うのは如何でしょうか?これはあくまで元のデザインを可能な限り残して、内部などの細かい部分をチューニングした一例です。もしその他のご要望があれば可能な限り対応させていただきます。」
デザインの一つを墨田の方へ押しやり、反応を待った。
「おお、これは・・・・・・中々良いですな。ちなみに、このプレートを全てコスチュームに取り入れた時の総重量は?」
「既存の物に比べておよそ六キログラム前後上がりますが、体力強化でカバーは可能な範疇です。頭部や脇腹、金的などの急所となりうる部分を重点的に守るので、動きはあまり阻害されないように配慮してあります。プレート以外の部分はゲル状のショックアブゾーバーを導入します。銃弾や鈍器などの運動エネルギーを吸収する優れものです。スーツの布地そのものはダイバースーツとその上にチタンに浸したケブラーの三重編み構造となります。勿論このままでも水中活動は可能です。色の選択も可能ですが、何かご希望は?」
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