霞む境界線
吸い込まれるような白い虚空に女が落ちていくのを見た直後、アレンとラビは暴走状態のティキと戦闘を繰り広げていた。
仲間を失った。
目前で起きた事実が、二人に重くのしかかる。
「絶対に…お前だけは許さねぇさァ!」
振るわれる巨大な槌。容易くつかまれたそれは柄を持つ少年ごと地面に叩きつける。
「ラビ!!」
アレンが神ノ道化でティキの腹を斬りつける。
だが掠っただけで、避けられてしまう。
対してリナリーは瓦礫の下敷きになる前に、チャオジーによって救出されていた。
辺りに散らばるのは粉々に砕けた瓦礫の破片。
チャオジーの腕には円環の形をしたイノセンスが光り輝いている。
それはフロワ・ティエドールの所有していた適合者未定のイノセンスの一つ。己に共鳴する人間を見つけ、方舟まで飛んできたのだ。
「これが、イノセンス…」
「たっ、助けてくれてありがとう、チャオ………あれ?」
リナリーの言葉は続かなかった。
自分がいて、チャオジーがいて、それにアレンとラビがいて────そして、一人欠けている。女の姿がどこにもない。
「マリア……!?」
そして彼女は思い出す。瓦礫に埋もれそうになった時、宙を舞っていた女の姿を。
その身体が向かった先は、塔の外だった。
「っ……マリアッ!!」
「リナリーさん、ダメっス!」
チャオジーの制止を振り切り、リナリーは城の外に向かって走り出す。
彼女の世界がまた一つ、壊れていく音がする。
「危ないッ、リナリー!!」
「……えっ」
束の間、少女の目前にティキの放った攻撃が迫る。
アレンはとっさにリナリーの間に入り、剣で跳ねのけた。
衝撃は止まることを知らない。次々と襲う攻撃に、少年の体が軋む。
「マナとの、約束なんだ…」
『ア、ハハ、ハハッ!』
ティキ・ミックは狂気に満ちた笑みを浮かべ、目の前のイノセンスを破壊することだけに囚われている。
アレンは閉じていた目を開ける。銀褐色が、隙間から差し込む光を受け、まばゆくきらめいた。
絶望の中でも、希望を信じて諦めない。
進み続けるのだ。
それがアレン・ウォーカーという少年の生き方である。
「僕の命が尽きるまで、戦ってやる!!」
その刹那、ちょうど少年の真下に首のないマリア像を象った文様が現れる。
そこからにょきっと現れたのは、楔に巻かれた棺と、その上に佇むスカルの頭をした人物。
衝撃で吹っ飛んだアレンの片足はその謎の人物につかまれ、宙に浮いた。
「何だ、この汚ねェガキは」
アレンの顔から、汗が大量に噴き出る。だらだら、だらだら。今日が命日かもしれないとさえ思った。
なぜならば、少年は気づいてしまった。スカルの頭の上に乗っている、見慣れた物体があるのを。黄金色のソイツは、尻尾をパタパタさせて愛嬌を振りまいている。
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