プロローグ
ハリー・ポッターは赤ん坊の頃に叔母であるペチュニア・ダーズリーの一家に引き取られた。そこでの生活は彼にとって苦痛と屈辱に満ちたものだった。
常日頃から従兄弟のダドリー・ダーズリーと比較され、貶められ、あらゆる事を否定され続けてきた。
与えられたものといえば、階段下の小さな物置とダドリーのお古ばかり。
満腹感というものを知らず、奴隷のように扱き使われる日々を送り、些細な事で罰を与えられた。
何日も食事を与えられず、床に転がる木屑や綿埃を食べた事もある。
そんな人生を送っていれば、誰であれ卑屈な性格になるものだ。
けれど、ハリー・ポッターは違った。
鬱屈した日々の中で怒りと憎しみを溜め込み続けた。
―――― いずれ、この屈辱を晴らしてみせる!! ダーズリー一家を地獄に叩き込む!!
そう、心に誓っていた。
いずれ来る、反撃の日の為に彼は一家に対して従順な下僕の仮面を被り、暇を見つけては図書館に通いつめて知識を集めた。
そして、待ち望んでいた日が唐突にやって来た。
ペチュニアが新しい学校の制服にする為だと、風呂場でダドリーのお古を灰色に染め上げている所を目撃して、いっその事、来るかも分からない日など待たずに一家を皆殺しにしてやろうかと画策していた時だった。
密かに自室である物置に持ち込んだナイフをマーケットでくすねた砥石で研いでいた時、
「ハリー! 郵便が届いたぞ! さっさと取ってこんか!」
と、忌々しきバーノンの声が飛んできた。
舌を打ち、郵便に意識が向いている隙を狙おうと決意して、ハリーは郵便を取りに向かった。
すると、驚くべき事が起きた。
それまでの人生の中で、ハリーが手紙をもらった事は一度もなかった。図書館の返本催促の手紙すら来た事はなかった。
それなのに、ハリーに宛てた手紙が紛れ込んでいたのだ。
ハリーは即座に手紙をパンツの中へ仕舞い込んだ。連中に見つかれば、間違いなく取り上げられると理解していたからだ。けれど、さすがにパンツの中に手を入れて来る事はない。そんな事をされた日には、すでに一家惨殺計画を実行に移していただろう。
「おじさん、郵便物を持ってきました」
礼儀を知らないバーノンは不快そうに鼻を鳴らすと、ハリーから郵便物の束を奪い取った。
ハリーは表情も変えず、心の中で罵詈雑言を並べ立てながら静かに物置へ戻った。
計画よりも、今は手紙が気になった。
「……よし」
物置に戻っても、すぐには開かない。
ハリーの怨敵たるダドリーは予告なく扉を開き、問答無用で暴力を振るってくるからだ。
もう隨分と前からハリーはダドリーの奇襲を受け流す術を身に着けていたが、手紙が見つかり、奪われる事は避けたかった。
耳を澄ませ、ダドリーが両親に気色の悪い甘え声を発しているのを確認してから、ハリーは漸く手紙をパンツから取り出した。
少し汗が染み込んでいたけれど、気にせずに裏面を見る。
そこには紋章入りの御大層な蝋による封印が施されていた。
《H》を中心に、獅子、鷲、穴熊、蛇の姿が描かれている。こんな立派な封蝋はバーノン宛ての郵便でも見た事がない。
驚きに目を見張りながら封を解くと、中にはどっさりと羊皮紙が入っていた。
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