第三話『ホグワーツ魔法魔術学校』
ハリーはホグワーツ特急のコンパートメントの一室を独占して、近代魔法史の本に目を通していた。それは魔法界における常識を手に入れる為だった。
マクゴナガルの所作はマグルの観点から見ても洗練されていたけれど、衣服や思考回路の一部が常軌を逸していた。彼女が魔法界の中でも常識知らずな人間である可能性も無くはない。けれど、そうでない場合、この常識のズレはハリーの魔法界での生活において無視できない問題となる。
これまでの人生において、ハリーは常に笑われる立場にあった。
常にダドリーのお下がりを身に着け、痩せぎすで、誰からも常識的な人間と認めてもらえなかったからだ。
これからの人生において、ハリーは常に笑う側に立つ事を誓っていた。
『ヘイ、相棒。お客さんだぜ?』
ゴスペルが言った。蛇である彼には眼球よりも優秀な探知機能が備わっている。
ピット器官という、鼻孔と目の間にある器官だ。赤外線感知機能があり、サーモグラフィーのように物質の温度を見分ける事が出来る。
だから、彼には扉が閉まったままの状態でも扉の向こう側に熱源体が現れて、右往左往した後に意を決して扉を開こうとしている姿が視えていた。
『面倒くさいな。ボクは一人がいいのに』
『オイオイ、相棒。そこはオレ様と二人っきりがいいって言っておくれよ』
『おっと、すまない。訂正するよ、ゴスペル。君との二人っきりの時間を邪魔されたくないんだ』
『愛してるぜ、相棒』
『ボクだって』
ハリーはゴスペルを心から愛している。それは、マクゴナガルからはじめて贈り物として与えられたものだからであり、ハリーにとって初めて心を許せた友達だったからだ。
蛇の言葉が分かるパーセルマウスは類稀な才能だとマクゴナガルが言っていた。彼の言葉が分かるのはハリーくらいなのだ。つまり、ハリーの秘密をどんなに打ち明けても、彼から他に漏れる事はない。
ある意味で、彼は究極の相談相手となり得る存在だった。
そして、何よりも重要な点は、ゴスペルもハリーを愛しているからだった。
「や、やあ。ここ、空いてるかい?」
入ってきたのは赤毛の少年だった。そばかすだらけの顔にハリーは顔を顰めそうになったけれど、少し考えた後に「どうぞ」と中へ通した。
ホグワーツに向かうまで、他の生徒と一切接触を持たないのは今後の事を考えると賢明とは思えなかったからだ。
覚えたばかりの常識のすり合わせの為にもサンプルは必要だった。幸い、入ってきた少年は我の強いタイプでは無さそうだった。
「僕、ロンって言うんだ。ロン・ウィーズリー。君は?」
加えて、それなりに社交的な性格である事がサンプルとしてプラスポイントだった。
「ボクの名前はハリーだ。ハリー・ポッター」
ハリーが名乗ると、ロンは目を見開いた。ダイアゴン横丁の入り口である漏れ鍋の店主、トムと似たり寄ったりな反応。あの時は見当違いな考察をしてしまったけれど、彼はハリーの名前が持つ意味を理解しているが故に驚いているのだという事が分かった。
十年前の事件だと言うのに、当時を知らない子供でさえもこの反応なのだと知り、ハリーはほくそ笑んだ。ロンから向けられる畏怖と憧憬の視線が実に心地よかった。
「き、君、あの? 本当に……その、あるのかい? あの、傷痕が」
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