10話 vsデュソルバート──そして
白亜の塔。セントラル=カセドラル。俺個人の目的のためには中に入らないといけない。しかもそこから大捜索が始まる。侵入者である時点で見つかれば容赦なく捕まって罰せられるだろうな。最悪殺されてしまう。だが、整合騎士に連れられてアリスの所に行ければそうならない。安全に目的を達せられる。それを目の前にいるデュソルバートって人にやってもらいたい。
そんな打算まみれの戦闘なのだが、気を抜くことなどできない。相手はおそらく弓の達人。急所を的確に射抜けるだろう。今もすでに構えられている。そして何よりも厄介なのが、暗さだ。月明かりしかない状況で、この距離で、見えにくい矢を避けないといけない。そして、避けるだけでは駄目だ。俺はこの生身一つしかないのだから、近づかないといけない。
「フッ!」
「このっ!」
走り出そうと足に力を込めたタイミングで矢を放たれる。構えている向き、指を離すタイミング。それらに意識を集中させていたから咄嗟に避けることができたが、体勢を崩された。矢継ぎ早に放たれる第二矢もなんとか躱すが、横腹を掠める。
──チッ! やっぱ感覚が鈍ってやがる!
そしてこの時初めて俺はこの世界の仕様を知った。痛みがある。リアルで矢で射抜かれたことなんてないけども、刃物で斬られたこともないけども、痛みがあまりにもリアリティ過ぎる。出血箇所を手で抑える余裕などもない。そんなとこに気を回させてくれるほどデュソルバートは甘くない。
一瞬逸らしてしまった視線を戻すと、次の矢を今まさに放とうとしていた。俺はそれを真横に飛ぶことで避け、慣性に極力逆らわずデュソルバートに近づくべく走る。慣性に逆らわないように走っているため大きく膨らむが、むしろそれが好都合だ。
「甘いぞ!」
「なっ!」
先程まで一本ずつ放っていたのに、今は矢を五本構えている。弓を横に向けているため、先程のように横飛びで躱すことなどできない。だが、足を緩めるなどそれこそ自殺行為だ。俺はむしろさらに力を込めて加速する。残り7、8メートルほどにまで近づいたところでデュソルバートが矢を放った。正面に一本、軽いステップで避けようにもその左右にも一本ずつ。そして横飛びしても刺さるようにさらに左右にも一本ずつ。
「ぐっ!」
スライディングの容量で体を低くし、矢の下を通過する。矢とすれ違った瞬間に体を起こし、若干失速した勢いを戻すべく足の指先まで集中して地面を蹴る。残り6メートルほどか。
だが、デュソルバートだって甘くなかった。すでに次の矢を放っていたのだ。五本の矢を同時に放っておきながら、もう一本をすでに手に持っていたのだろう。完全に前へと力を入れたばかりで、避ける余裕などない。
──回避、無理。耐える、不可能。顔面だから。ならば!
「ぬぉっ!」
「なにっ!?」
──掴んで止めるしかない
だが、矢と俺。お互いに向かい合って近づいていた。矢の勢いを完全に止められた時には俺の額を矢先が掠めてる。流れ出る血など気にしない。流石に手で止めるなど思っていなかったようで、デュソルバートが驚いて隙を作った。これを活かさないわけにはいかない。
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