13話 着実に
咎人の一人である剣士キリト。その者の《武装完全支配術》と私の《武装完全支配術》によって壁が破壊され、私達は外へと投げ出された。キリトは状況に応じてすぐに動ける人間のようで、私の手を掴み、剣をセントラル=カセドラルの壁の隙間へと差し込むことで落下を防いでいた。
「その手を離しなさい! 罪人に命を救われるなど、そんな恥を晒すことなど耐えられません!」
「おわっ! 暴れるなよバカ!」
「なっ!? 屈辱的な言葉を……。取り消しなさい!」
「いいや取り消さないね。こんなとこで暴れたって何も解決しないことが分からないからバカって言ってんだよこのバカ! あんたをここで死なせるわけにはいかないし、俺一人助かった時に俺は……ジークになんて言えばいいんだよ!」
「っ!」
その名を出されて私は息を呑んだ。無茶苦茶な手段を取って、命を危険にさらしながらも会いに来てくれたジーク。三年ぶりに出会えて、まだ全然話をできてない。そんな彼のことを忘れて、生き恥なんて気にして死のうとしてたなんて。
私が黙るとキリトは私の手を引き上げ、同じように壁の隙間へ剣を差し込むように頼んでくる。彼の腕が限界に近いらしい。私はその頼みを聞いて愛剣を差し込み、落下しかけたキリトの服を掴む。
「あ、ありがとう……」
「借りを返しただけです」
キリトを持ち上げ、キリトがもう一度自分の剣へとぶら下がる。お互い二向き合ったところで私はふと気づいた。顔立ちや体格は当然違うのだけど、髪色と瞳の色はジークと変わらないということに。ジークはキリトと知り合いだと言った。ジークは"ベクタの迷子"だけど、キリトと生まれた場所が同じなのだろう。
「停戦協定を結ばないか?」
「停戦協定?」
「ああ。一人でここからどうにかするよりも、二人で協力した方が生存率も上がる。細かいことを決めても仕方ないし、どっちかが落ちそうになったらさっきみたいに助ける。どうだ?」
「……なるほど。たしかにその方が良いでしょう。ですが、この窮地を脱したその時から敵同士です。すぐさま斬り伏せますので」
「お、おう」
冷や汗を流すキリトに冷めた目線を送りつつ、私は自分の鎧の籠手部分を鎖へと変えた。キリトはそれを見て物質変換術かと驚いていたが、そんなものを私ができるはずがない。知識の浅さを馬鹿にしながら今のは形状変化術だと教え、鎖をキリトへと渡す。鎖の端を腰へと引っ掛け、キリトもまた同様に引っ掛ける。これでお互い助けやすくなった。
「中に戻る手段は、壁をもう一度壊すか、下まで行くか、登るかだが……」
「壁を破壊するのは不可能でしょう。あの現象はお互いの《武装完全支配術》が衝突してたまたま起きたものです。狙ってするべきではないですし、足場もないですから」
「なら下か上かだな。たしか下に飛竜の発着所があるだろ? 飛竜で上までひとっ飛びしてもらうのは?」
「不可能です。最高司祭様の術式によって、飛竜はセントラル=カセドラルの一定の高さまでしか飛べません」
「なら自力で登るしかないか……」
「95階が《暁星の望楼》となっており、そこからなら入れます。そこまで登るとしましょう」
そう決まったところでキリトが神聖術を行使し、杭を作り出す。それを剣と同じように壁の隙間へと差し込み、キリトがその杭の上へと登る。それを繰り返して上を目指すらしい。たしかに登る手段はそれぐらいしかないでしょうね。キリトが上がったところで私もキリトの一個下の杭へと移動し、剣をしまう。
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