7話 プレゼント
さてさて、今日はどこに行こうか。丸一日使っても南は満足に散策できないから行ってないし、西側はそれなりに楽しめた。東側は新鮮味に欠けるからなー。どうしたものかと考えていると、向かい側に座って紅茶を優雅に飲んでいるアリスが首を傾げた。どうやら俺が何も考えられていないことが不思議らしい。
「俺だって思いつかない時があんの」
「私はまだ何も言ってませんが……。当たってますけど」
「西も東もそれなりに行ったしさー。壁登るのだって一苦労だし」
「そうですね。私も慣れたとはいえ登りたいとは思いません」
「それなんだよなー。アリスが慣れちゃったから反応が薄くて」
「……お前、私の動転を見て楽しんでましたね?」
自分の失言に気づいて顔を横にそらす。前方から無言の圧力がかけられてくるが、ここは耐えることにしよう。なんとかして話題を変えたいところだが、今日をどう過ごすかが問題なのだ。変えられる話題がない。
俺が冷や汗を流しながら必死に話題を探していると、アリスがため息をついてカップをソーサラーの上に戻した。圧力も無くなったということは、ひとまずは許してくれるらしい。それどころか話題まで提供してくれた。ありがたいね。
「言われてみればたしかに、アリスにはまだ案内してない場所があるか」
「ええ。第七区と第八区はまだです。かれこれ八ヶ月は経っているのですがね」
「早いもんだな。まぁ、アリスが抜け出してこれるのも数少ないし、むしろ月に一回ぐらい出てこられてるのが凄いよな」
「苦労しますけどね」
苦労の一言で済ませられることでもない気がするだよな。アリスは俺みたいにぶっ飛んだやり方で出てきてるわけじゃない。たしかに箱に入って出てくるのはなかなかな思考をしている。だが、それでも正規の方法だ。手順はちゃんと踏んでいる。むしろそれを疑問に思わずに毎回運んでる人の思考を疑いたい。
さて、第八区はぶっちゃけてそこまで目新しいものや面白いものがあるわけじゃない。やっぱり行くなら第七区だろう。そろそろサードレの爺さんのとこに行こうって思ってたしな。今日行こうと思ってたのはさっきまで忘れてたけども。
「第七区ですか?」
「うん。ちょっと俺の用事もあるし、ちょうどいいだろ?」
「私は案内してもらう身。ジークの都合もあるのでしたら優先してもらって構いませんよ」
「大したようでもないから、適当に回りながらになる」
「わかりました。では早速行きましょうか」
紅茶を飲み干したアリスが席を立ち、俺もそれに続く。会計を済ませて目指すは職人の街とも言える第七区。ちなみに俺の遊び場の一つでもある。何度店に行っても、職人たちそれぞれのこだわりがあるから見てて飽きない。次々と新作を作るしな。
俺が何度も第七区に足を運んで抱いている感想をアリスに話すと、アリスは第七区に興味を持ってくれたようだ。素晴らしい腕の技師たちがいるんだなって楽しみにしてる。アリスの目にあれらがどう映るかはわからないんだけどな。アリスってだいぶいいとこの子っぽいし。
「……ジークは貴族についてどう思いますか?」
「おもむろにどうした」
「ジークの意見を聞いてみたかったので」
「なるほどね」
ギャルゲーであれば私の家柄についてどう思いますかってことになって、それはつまり私についてどう思いますかって質問である。だが残念だな。これはギャルゲーの世界ではないのだ。そしてアリスもヒロインじゃない。一人の人間で、聡明な人物だ。そういう意図があっての質問じゃない。言葉通りに貴族に対する俺の意見を聞きたいのだろう。
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