14
木々が生い茂る郊外の森でタクシーを降りる。
この辺りには何も無いが、この森の奥に城があるとかないとかいう都市伝説があるため興味本位でこの森を探索する者はたまにいる。
すこぶる不本意だがわたしもその手合いだと思われたらしく、タクシーの運転手は物好きを見る以上の視線を向けてこなかった。
まあ、前のサイドカーを追ってくれなんて台詞を吐いたのだから、その勘違いは妥当と言えるか。
「それにしても、何を考えてるのかしら」
吐き捨てるような愚痴は間桐皐月に向けたもの。
何かしらの考えがあると思っていたが、ヴェルデを出るなりすぐに桜と別行動を取った。
魔術師としての格はともかく、数を活かす戦略ならば桜の側を離れるのは得策ではない。現にこうしてわたしが桜を追っている。
予見出来ないとは考えにくい。何しろあの女はキャスターを打倒したのだ。わたしは綺礼からそう聞いている。
そして桜達が向かった場所。
嫌な予感がする。
「何が言いたいんだ、リン?」
実体化して周囲に気を配っているアーチャーが顔も向けぬまま尋ねてきた。
「良い機会だから教えておくけど、この森を奥深く進めばアインツベルンの城があるの。バーサーカーのマスターはそこに居を構えているはずよ」
あれだけのサーヴァントを従えていればこそこそと身を隠す必要もないだろう。きっとこの奥の城で悠然と来訪者を待ち構えているに違いない。
「なるほどな。リンの懸念はそこか」
「ええ。最悪はアインツベルンと間桐の同盟よね。でも、あのイリヤスフィールが同盟なんて必要とするとは思えない」
「それは同感だ」
一度だけの邂逅だったが、彼女は自らのサーヴァントの強さを狂信していたし、バーサーカーもそれに見合う強大さを見せた。
それにアインツベルンと同盟を組む事もメリットばかりとは言えない。
最終的に聖杯を手にする者は一人なのだから、バーサーカーを打倒しうる手立ての無い者がバーサーカーと同盟しても敗北の先延ばしにしかならない。
いずれはバーサーカーを打倒しなければならないという足枷は外せないのだ。
「それにしてもあの女、ほんとにイライラするわ」
間桐皐月。桜の義姉。後継でもないくせに魔術を志向する。才があるならばそれもいいだろう。優秀であるなら新たに家を興す道も残っている。
だがあの女は桜に家督を奪われている。
無能ならば無能らしくしていればいいのに、わたしと対峙し、あまつさえ対等であるかのように振る舞う。
いや、先の昼食ではむしろわたしを見下してすらいた。
理で測れない行動は疑念を呼ぶ。無視していい引っ掛かりではないが今は置くべきことも理解している。
なにしろ苛立ちの原因がそれだけではないことなど承知しているのだから。
間桐桜。わたしの妹。
私はすでに桜の姉ではなく、また桜には遠坂の家訓など関係ないのだが、それでもああして周囲の顔色を伺っている様は我慢ならない。
これから相対するのはそういう相手だ。片付かない感情は思考を鈍らせる。
戒めるべく殊更気合を入れていたところ、何かに鼻をぶつけた。
「ちょっと、急に止まらないでよね」
何かと思えばアーチャーの背中だった。
自分の不注意を恥じつつも、ごまかし交じりに文句を口にしてしまう。
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