ハーメルン
魔法科高校の副風紀委員長
第五話

未だ達也が上級生二人の前で会話を続けている中、深雪が我慢しきれなくなったのか前に出る。

「ちょっとした行き違いだったんです、お手を煩わせてしまい申し訳ありませんでした」

初日から問題を起こす人間とは思えない人物の登場に摩利は少し驚いた。その隙を逃すまいと沈黙を守っていた真由美が達也達と摩利の間に立つ。

「もういいじゃない、摩利。……達也君、本当にただの見学だったのよねー?」

と、ウインクを添えて確認をとる真由美。そこにはYESと答える以外の選択肢は残されていないようにも見えた。反論が無いことを確認し真由美は続ける。

「生徒同士で教え合う事が禁止されている訳ではありませんが、魔法の行使には細かな制限があります。魔法の発動を伴う自習活動は控えた方がよろしいでしょうね」

咳払いをした摩利が真由美に続いて口を開く。

「会長がこう仰せられていることもあるし、今回の事は不問にします。以後このようなことがないように!」

その言葉を聞いた真由美や摩利、芺以外の面々は一科生、二科生関わらず頭を下げる。

「行くぞ、芺」

はい、と短い返事を返した芺は摩利の元へ行く前にずっと蚊帳の外だった森崎に話しかける。

「森崎、俺が言いたいことは分かるな?」

その言葉に森崎は苦虫を噛み潰したような顔で答える。

「……はい」

芺は“ならいい”と少し笑顔を見せ、小走りで摩利の元へ向かって行った。
芺が来ると同時に摩利は歩き始めたが、徐に達也の方に振り向き口を開いた。

「君の名前は?」

達也は頭を上げ丁寧に答える。

「一年E組、司波達也です」

覚えておこう、と言い残し摩利は立ち去る。その後を真由美と芺が追い、この一件は閉幕となった。
一年生の元から帰る際に、摩利は芺に話しかける。

「さっきのは『領域干渉』か?知らないうちにあそこまで使いこなせるようになっているとはな」
「自分は基本的には想子の扱いくらいしか強みがありませんから」
「ふっ、謙遜だな」

芺はある特殊な体質の為に……と言うよりはその副次的な効果で想子の扱いが人並み以上に得意である。それ故に無系統は得意であるが、他の系統魔法は得意としている魔法の方が少ないレベルであった。

「それよりも摩利さん。寛大な処置、感謝します」
「なに、エリカもいたことだしな」

少し先を歩いていた摩利が振り返る。

「それに感謝を言うのはこちらもだ」
「と、言いますと?」

全く感謝されるようなことをした心当たりがない芺は首を傾げる。それを見た真由美が摩利の代わりに答える。

「だって芺君があそこで割り込んでくれなかったら森崎君か千葉さんのどちらかは怪我してたと思うわよ?」

確かに、あの場面ではエリカが早ければ森崎が、森崎が早ければエリカが怪我していたかもしれない。そんな事になれば尚更一科と二科の軋轢は深まっていただろう。

「その通りだ。全く……エリカのやつは」

芺は心の中ですぐ実力行使に訴えようとするのは摩利さんも同じでは。などと考えていたが、そんな事を口に出しては次の実力行使の標的が定まってしまうために大人しく摩利の意見に賛同するのであった。

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