第11航路 奇跡と野心
「発見できなかった・・・と。」
各地を捜索し再度終結した艦隊の報告を受けたクーラント。その声には小さな落胆が現れていた。
「我々が見逃したのか。貴方の予想が間違っていたのか。・・・それとも。」
そこまで言ってクーラントは茶を飲む。その言葉の続きを読み取ったライオスは自分の立場がいささか危うい事を再確認させられた。
敵を発見できなかった理由として考えられる事は3つ。捜索艦隊が見逃してしまったか、ライオスの予想が的外れだったか、ライオスが彼等を庇うためにワザと別方向を捜索するよう進言したか。それはクーラントのみならず他の士官達も同じ事を考えていた。
「ライオス少尉。貴方はどう考えますか?」
ここでクーラントはライオスに質問する。室内にいた他の士官達の視線が集中する中、ライオスは冷静に返事した。
「私としてはやはりどこかの無人地帯に潜んでいるものと思います。」
「自分の判断に誤りは無いと。根拠はあるのですか?」
「はい。こちらをご覧ください。」
そう言って彼は机のホログラムを起動させる。そこには大量のリストが並んでいた。
「これは以前セクター4で回収されたドン・ディッジのモノとみられる残骸のリストです。ご覧の通り搭載されていた物資はあるものの船体部分は発見されていません。」
「爆発によってどこかへ飛んで行ったのでは無いか?」
「確かにその可能性はあります。ですが他の艦の残骸は発見できあの巨大艦の残骸のみ見当たらないのは不自然です。この事からドン・ディッジは敵によって奪取されたものと推定されます。」
「それは以前にもそう結論が出ている!何を今更確認しているんだ!」
ノイマン少佐が苛立ちを隠そうともせず声を荒げる。だがライオスは冷静に対応した。
「このリストに記載されている物資には大量の食料があります。そこから推算して艦内の食料は最低でも4分の3は宇宙に放出されたと思われます。」
「ふむ?つまり敵は食料の備蓄が乏しいと言いたい訳ですか?」
「はい。そして食料を補給する為には宇宙港から補給するしかありません。敵は国内に潜み小型艇などで食料を手に入れている可能性があります。」
「ちょっと待ってくれ。確かゼー・グルフ級には食料生産プラントも搭載されていたはずだ。そいつを使えば危険を犯さず食料を手に入れられるぞ。」
次に発言したのはキール中佐だ。中佐の言う通りゼー・グルフ級に限らずヤッハバッハの艦艇は長大な宇宙を渡り歩く為に食料生産プラントなど各種装置などが搭載されている。必要な食糧を自分の艦内で生産する事で、補給艦の数を減らすと共に広大な宇宙を大軍で、しかもボイドゲート無しで渡り歩くのだ。
「これについては、ドン・ディッジには食料生産プラントが装備されていない事で説明出来ます。」
「何?」
ドン・ディッジに食料生産プラントが装備されていない理由。それは例の対艦クラスターレーザーが原因である。物理的に巨大なシステムである対艦クラスターレーザーを搭載する為にいくつかの装備が取り外されており、その一つが食糧生産プラントだ。
「この他にも長距離航行能力に必要な装備がいくつか外されています。この事から深宇宙に逃走した可能性は極めて低く、生き延びるには先程述べた通り小型艇による“密輸”が頼りと思われます。私としては国内の取り調べを強化し彼等の密輸ルートを割り出すべきと思います。」
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