第2話
「おつかれー!」
私は今日は朝からバンドメンバーである有咲の家にある蔵でバンド練習をしていた。
その蔵にはバンドのセットがあってスタジオを予約しなくても練習が出来る恵まれた環境にあるんだよね。
そんな日常を今日も味わって消化したその帰り道。
私は商店街の入り口で制服をしっかりと着こなした、最近知り合った男の人がいた。
「あれ?みゆき君だよね?」
「おっ、沙綾か。なんか久しぶりだね」
弟を助けてもらった男の人、みゆき君に会うのも一週間ぶり。
親しそうに話しているけど、まだ会ったのは2回目だし何より知らない事の方が多いからどちらかと言うと他人寄りなんです。
私って、結構大胆なのかな?
「みゆき君は商店街で何してるの?」
「何って……沙綾に会いに来たんだよ?」
「えっ!?」
私はつい素っ頓狂な声を喉から発してしまった。
後ろから急に目隠しされて「だーれだっ!」ってされた時も確か同じような声が出たような気がする。
な、なんで私に会いに来てるのっ!
恥ずかしかったから目線はずっと下の方を向いていた。目は左右に揺れっぱなし。
みゆき君は何も言ってこないからゆっくりと目線を上げていくと、「してやったり」みたいな顔をしている彼がいた。
「冗談だって!じょーだん!」
「ちょっと!みゆき君めちゃくちゃひどいっ!」
「本気にする沙綾が悪いよ」
あーっはっはっは、とお腹を押さえながら笑うみゆき君。
私はちっとも面白くないし、ちょっと頬っぺたを膨らませて通り過ぎてみる事にした。
案の定、みゆき君は顔色にちょっぴりの焦燥の色が付け加えられた。
そうだねー、良い顔色に薄い紫色が追加されたような感じ。
「ほんとの事話すよ、沙綾」
「……」
「あ、あれ?怒ってる?」
「……、ふふ、ふふふふ」
もう、我慢できないっ!
頬っぺたを膨らませていた空気が笑いとなって口から元気よく飛び出していった。
後ろから心配そうな顔をして向かってくる彼の顔がより一層、面白さを増す。
「沙綾こそひどくない?俺、結構罪悪感増したんだけど」
「先に仕掛けるみゆき君が悪いよ~。……それで、どうして商店街にいるの?うちのパンが食べたくなった?」
「なんか、本当の事を言うのも嫌になってきたよ……」
目じりを下げながらそんな事を言うみゆき君。
そう言えば、今日、学校は休みなのにどうしてみゆき君は制服を着ているんだろう。何かの部活動に所属しているのかも。
「商店街の風景を見ていたんだ。俺はこういう古き良き商店街の雰囲気を肌で感じたくて」
「そうなの?」
「あ、今『なんだ、うちのお店には来てくれないんだ……』って思ったよね?」
「みゆき君、そういう風に女の子と接していたら嫌われちゃうよ?」
「うそ!?それにちゃんと沙綾のお店にも寄ろうって思ってたから!」
みゆき君は小声で「だから最近、女の子の友達が距離を置くのか……」と暗鬱な言葉が飛び出したけど、そこは触れない方が良いなって思った。
商店街の雰囲気を肌で感じたい。今までそんな理由でここに来た人なんて聞いた事なかった私は少し興味を持った。
だって、商店街の事を好きって言われているように感じたから。
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