8話
「あ、あの……サトリ様。あなたの後ろにいるのは……ひょっとして……」
「ええ。元森の賢王、今は私の家来のハムスケです。よろしくしてあげてください」
「姫のおっしゃられた通り、それがしはハムスケ。姫の家臣でござる」
サトリとハムスケの前で、集まった村人とエンリ配下のゴブリン達が静まり返っていた。サトリの奇想天外な行動にすっかり慣れてしまった村人達は「サトリ様が言うなら大丈夫だろ」と半ば投げやりな空気だが、サトリの事をまだよく知らないゴブリン達はそうは行かない。
「サトリ様、そいつは本当に大丈夫なんですかね?」
「大丈夫。この村のみんなは決して傷つけないように言ってあるから」
「その通りでござる。それがしは姫の忠臣。姫の御領地の民をいじめたりしないでござる」
サトリも村人もゴブリンも一瞬固まったが、面倒臭そうなのでいちいち訂正したりはしない。とにかくハムスケが安全だということが分かればいいのだから。しかしそこに一人だけ空気を読めない娘がいた。
「サトリ様は領主様なんかじゃないよ!」
「ちょっとネム!」
エンリに連れられてきていたネムは、年齢が年齢だけに空気を読むというのは難しかったのだ。
「なんと?それでは何なのでござるか?」
「サトリ様は領主様なんかよりずっと強くて、綺麗で、優しいんだよ!」
「おお……それがしとしたことが迂闊でござった。姫ほどのお方がそこらの領主と同じ訳がないでござるな!」
最初はネムの乱入に呆れ顔だった村人たちも、やり取りを聞いているうちに納得したようにうんうんと頷いたり、そうだと呟く者まで出てきている。サトリは気恥ずかしさで顔から火が出る思いだった。
(持ち上げすぎだろ!それともこれは羞恥プレイか?俺をどうしたいんだこいつら!)
こんなときこそロールプレイの出番なのだろうが、この状態でやると予想外の方向へ話が転がる予感しかしない。それに動揺しまくっていたサトリはうまく切り替えできる自信がなかった。ハムスケをちょっと抓って黙らせたいところだが、無駄に頑丈なので魔法を使わないと難しいし、そこまでやるのも何だかなあと思ってしまう。
現実逃避したサトリが空に浮かんだ雲の形を何かに例えていると、足元に寄って来たネムがきらきらとした目で見上げてくる。
「サトリ様ってやっぱりどこかのお姫様だったの?」
(……ハムスケのバカ!さっそく子供が勘違いしちゃったじゃないか!)
もう限界だとサトリは強引に話を打ち切る事にした。
「えーと!それよりお話があります!私は明日この村を出てエ・ランテルに向かうつもりです」
村人達から戸惑いの声が漏れる。立て続けに襲撃を受けた村人たちは、サトリが居なくなってしまうことに強い不安を感じていたのだ。エンリのゴブリン達がいるとはいえ、村の男手が大きく減ってしまっているということもある。だが既にサトリに莫大な恩をがあると感じている彼らが、引き留めるような真似はできなかった。
「サトリ様、どこかに行っちゃうの?ずっと一緒にいてくれないの?」
「ネム!サトリ様に無理を言わないの!」
寂しそうな顔のネムをエンリが宥める様子に、わずかな罪悪感を抱きつつサトリは話を続ける。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/7
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク