4.どーぶらぇうーとらぁ
「おきろー」
「かいていとくー、きしょうのおじかんでございますー」
「どーぶらぇうーとらぁ」
「しまってこー」
「けんぞーけんぞーだーけんぞー」
「……おぁよ……」
顔をばしばしと小さな手に叩かれる衝撃で目を覚ます。
まだ見慣れない天井に一瞬、はて、ここはどこだっただろうと考えを巡らせた。
「……そっか。今日は……まずは建造、だっけ。するんだったね」
提督室の隣に用意された私室。ここを寝床にしてからもう三日目だ。
大淀と出会った日から昨日までの二日間は、ひたすら提督として活動するための座学に取り組んだ。
ちなみに大淀には敬称をつけるな、と言われた。提督の腰が低いのは軍事行動的によろしくないらしい。この鎮守府に今後所属する艦娘にも呼び捨てで接するように、とのことだった。
それはともかく、座学というのは艦種ごとの特徴から始まって、その運用方法・鎮守府の運営方針。敵の総称である深海棲艦について学んだりした。
……まぁ、正直全然頭に入ってないんだけど。たった三日の勉強で軍人になれたら苦労しない。
本当は一か月から二か月、大淀がこの鎮守府に滞在して、その間実地訓練って形で指導する予定だったらしい。けれど。
「大本営近海にて、深海棲艦の大規模な侵略行動が確認されました。私も前線にて作戦行動に参加するよう帰還命令が下っています。
……海原提督には本当に申し訳ないのですが、明日以降は一提督として、すぐに活動を開始していただくことになります」
そんなことを昨日、着任二日目の早朝に言われた。
「はぁ……」
「ひとまずは! 取り急ぎ提督としてこなしていただきたい最低限の活動内容をまとめてありますので! こちらを参考にしていただきたく!」
「あぁ、どうも……」
当然文句を言ってやりたい気持ちもあったけど、几帳面にまとめられたノートと、大淀の目元にうっすらと浮かんだ隈を見てしまっては何も言えなかった。
心苦しそうにしつつも大急ぎで僕に提督の何たるかを教示した彼女は、その日の夕方にはこの鎮守府を去っていったのだった。
「こちらには、私の個人用端末の番号が入っています! 急ぎの用があればいつでもご連絡下さい! 作戦行動中は応答できませんが、確認次第すぐに折り返しますので!」
別れ際に渡されたのはスマホだった。携帯なんて持ったことないけど、さすがに電話のかけ方くらいは知ってる。
でも、僕が彼女に連絡することはきっとないだろう。彼女にとって、僕は上司に押し付けられた面倒ごとでしかないだろうから。
とにかく、僕は今日から一人でやっていくしかないらしい。この馬鹿みたいに広い鎮守府で、大淀が残したノートだけを頼りに。
「……よしっ、とりあえず、やるかぁ」
「いがいにげんきだ」
「やろーやろー」
「けんぞーけんぞーけんぞーだー」
「きがえる? きがえる?」
「うん。とりあえず顔洗って、着替えようかな」
「「てつだう? てつだう?」」
「うん、とりあえず外出ててね」
「「きゃー♪」」
僕をからかうように纏わりつく妖精さんたちを引っぺがして、隣の提督室に放り込んだ。
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