ハーメルン
ポケットモンスター 侵食される現代世界
第7話 お爺ちゃんはSATUMA人

 関東へと向かう事を決意し、アイドルネキと簡単に打ち合わせを行った翌日の昼間。私はポチの散歩の途中に、ある人物の家へお邪魔していた。
 目的は、主に挨拶だ。場合によっては長期間に渡って家を空ける事になるので、心配させないように事前に報告しておこうという話……なのだが。

「…………」
「…………」

 非常に、空気が、重い。
 家主も私も、それどころかポチすらも一言も喋らない。
 家主と私が喋ったのは私が家に上がる際にお互い社交辞令を交わしたときと、招かれた居間で交わした挨拶のみで、その後は畳の上の座布団に座ってお茶を飲んでいるだけ。ポチに至っては私の近くで行儀よくしているのみ。
 もう何度目か。沈黙に耐えかねて家主が出した湯飲みに手を伸ばし、冷めてきた緑茶を少しだけ啜る。それはロリボディ故なのか、甘党な私からすればいささか以上に苦味が強く、とてもではないが落ち着ける代物ではない。

「…………」
「…………」

 苦さで顔をしかめない様に注意する私とは打って変わって、低い机の向こう側に座る家主は落ち着いた様子で苦い緑茶を一飲み。その有り様は実に堂に入っており、貫禄や威厳すら感じさせる。あるいは『プレッシャー』なのか。
 凄まじい圧を発する家主を見つつ、流石はSATUMA人かと何度目かの変な納得をする。……そう、今私がお邪魔しているのはネットではSATUMA人で通っている人の家、鹿児島から移住してきたという東郷お爺ちゃんの家だ。

 思えば、東郷お爺ちゃんには本当にお世話になった。この辺りに住んでいる人達には軒並みお世話になったが、東郷お爺ちゃんはその中でも特に私が頼った人だ。
 例えば拾ってきたポチの躾を手伝って貰ったし、簡単にだが護身術を教えて貰ったりした。暇なときに話をしに来た回数も多く、まるで孫の様に可愛がって貰えたと……勝手ながら思っている。それと、これは推測になるのだが……私が住所バレしていたのに未だに無事なのは東郷お爺ちゃんが頑張ってくれたからだろう。ポチが番犬だったのもあるだろうが……東郷お爺ちゃんは警察にコネがあると聞く。巡回中の警察が多いのは、恐らくこのおかげだ。
 ……そう思えばこの重々しい『プレッシャー』もさして気にならなくなる。いや、いつもより重々しいのは気になるが、それは脇に置いておけるだろう。

「東郷お爺ちゃん」
「……何かな」

 厳格。そうとしか言い様のない声で、しかしどこかに優しさを持って東郷お爺ちゃんが私に声を返してくる。
 厳格さに食われかけた私は一拍息を飲み、優しさを頼って口を開く。

「私、関東に行こうと思う」
「関東」

 ふむ。と東郷お爺ちゃんは頷き、少し考えた様子を見せた後。

「引っ越すのか? それとも旅行か?」
「旅行、の予定。ただ、かなり長期になるかも知れないから。一応話しておこうと思って」
「なるほど。……他の者にはもう話したのか?」
「ううん。まだ」
「なら話しておきなさい。ワシが話しておいてもよいが、シロちゃんから話された方が彼らも嬉しいだろうからな」
「うん。分かった」

 私から話された方が嬉しいのかは正直分からないし納得し難いが、東郷お爺ちゃんがそういうならそうなのだろう。もともと私がやるつもりだったが、しっかりやっておこうと思った。


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