ハーメルン
ポケットモンスター 侵食される現代世界
第10話 夜の海に浮かぶ城

 モンスターボールと虫ポケモンの絵をネットオークションに上げた日から一夜明け、アイドルネキが迎えに来るその日の夕方。私はいつものパーカーとズボンスタイルでアイドルネキの迎えを待っていた。本当ならスカートぐらい着た方が良いのだろうが、生憎持っていない。その辺はアイドルネキのオシャレ指導に期待? うん、期待するしかないだろう。
 ちなみに手持ちの荷物は一切無い。全てアイドルネキが用意すると豪語して譲らなかったので、渋々任せたのだ。まぁ、旅行カバンなんて持っていなかったから助かったけども。

「わふぅ……」
「…………」

 ちなみにアイドルネキを待っているのは私だけではない。アイドルネキの許可もあって連れていく事になっているポチと、見送りがしたいと言った東郷お爺ちゃんもアイドルネキの到着を待っている。
 ポチは暇そうにしつつも私の側で行儀よく待っており、東郷お爺ちゃんはどこかピリピリとした雰囲気を放っていた。私? 私は緊張もあるが、基本的にはポチ寄りだ。というかそろそろ来てくれないと肌が焼けてしまうのだが……まさか迷子か?

「……シロちゃんや。迎えはそろそろだったな?」
「うん。さっき連絡があって、あと10分もあれば着くはずだって」
「…………」

 焦れてきたのか、東郷お爺ちゃんが2度目の確認をしてくる。ちなみにその連絡があったのは約10分前。正確には7、8分前だろうか? どちらにせよそろそろのはずだが……っと?

「グルゥ……?」
「ふむ」
「お、おぉ……」

 何の前触れも無く曲がり角を曲がって現れたソレに、私達は三者三様の反応を示した。ポチは怪訝そうに、東郷お爺ちゃんは何かを思案する様に、そして私は感嘆の声を漏らす。
 約束の時間間近に私達の前に現れたのは……リムジンだ。それも大統領とかが乗っていそうな、黒くて長いアレ。まさか……?

 いや、いやいや、幾ら何でもそれは無いだろう。あのリムジンは偶然ここを通り掛かっただけに違いない。そう私が思案している間にも、リムジンはひび割れたアスファルトを蹴りながらこちらへと近付いて来て……私達の目の前で止まった。
 目の前に黒光りするリムジンの横っ面、映る犬と老人と少女。それらを呆然と見ていると、リムジンからずいぶんと体格の良い運転手だろう人が降りて来て、リムジンの扉を開けていく。
 一拍。私とは真逆の艶やかな黒髪がサラリと流れて、その綺麗な人は降りて来た。間違いない、テレビで見たことがある。アイドルネキだ。確か本名は……

「ふふ、こうして会うのは初めてね。伊藤結香よ。ユウカでいいわ。宜しくね? シロちゃん」

 本名、伊藤ユウカ。シロ民通称アイドルネキ。祖父に歴戦の政治家を、父に大企業の社長を持つ現役アイドルにして名女優。間違いなく有名人である彼女は、握手だろう手を差し出しつつ私に目線の高さを合わせてくる。
 彼女の挨拶は堂に入っているというのか、実に自信溢れる堂々たる物で、コミュ症気味の私からすればそれだけで飲まれてしまう様な物だった。……とはいえ飲まれてばかりもいられない。私は何とか手を伸ばして握手しつつ、挨拶を返す。

「ぁ、あ、はい。宜しくお願いします。えっと、不知火白です」
「えぇ、よく知ってるわ。……それで、その子がポチで、そちらの御仁が噂のお爺ちゃんかしら?」
「は、はい。この子がポチです。それでお爺ちゃんが……はい、噂のお爺ちゃんです」

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/5

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析