第11話 お嬢様の手は広い
「……そうね」
軽く足を動かして船の欄干に身を預ける。そこから見えるのは船の光に照らされた黒い海……白さなんて無いのに、どこかシロちゃんを思い出した私はおかしいのだろうか?
まぁ、落ち着く事は出来た。
「はぁ……」
しかしため息ぐらいは吐きたくなる。あの町は最近幾らかマシになったと聴いていたが……やはり修羅の国という事なのか、それとも根っこまでは枯れてなかったのか、どちらにせよロクでもない。悪質な変態どもはいつの間にか過激なテロリストに変質していたのだから。
これでは警察を呼んでも戦力不足だろう。自衛隊を呼んでやっと勝負になる。しかしそれは無理だ。自衛隊なんて動かせない。ならば手持ちの戦力に武装を……そう考えたいが、流石の私も銃器の入手ルートは持ってない。ここの船長なら密輸ルートの1つや2つはぐらい持っているだろうが……シロちゃんの為だからといっても何でもしていいと、悪事を働いてもいいという訳ではない。しかし、しかしこれでは対抗のしようが……
「今から関門橋とトンネルで警察に検問を張らせるのは……間に合わないでしょうね」
『あぁ、無理だろう。奴はすでに本州に上陸しているはずだ。水際での迎撃が出来ない以上はゲリラ戦になる。もしも全ての警察を動かせるなら、ゲリラ戦でも勝利する事は可能だが……』
「そんな力はお祖父様にだって無いわ。やるにしても時間が掛かる。……個人特定と、その証拠はある?」
『無いな。超能力者の透視が証拠になるならあるが』
「残念だけど、日本の法律は超能力者に対応してないの」
お互いにため息を吐き、先行きの暗さを嘆く。
しかし嘆くばかりは私のすることではないし、そんな奴を重用したりはしない。つまり。
『ただ、1つだけ手掛かりがある』
そら、来た。
私は期待を隠しもせずに先を促させる。すると犬兵は淀みなく報告し始めた。
『どうやら奴は九州にある拠点を軒並み引き払わせたらしいが……1ヶ所だけ、支援者と連絡をつける為に連絡員を残して設置したままらしい。見えたビジョンも曖昧だから確証も無く、場所も曖昧だが……』
「いいわ。追って。資金は引き続き出して上げる。私兵は……一人一人に確認を取って使って。あれはお父様の人員だから」
『了解した』
自信ありげな犬兵に調査続行の許可を出し、私はスマホの電源を落とす。
結局決着はつかず、安全も確保出来なかった。しかし前進はしている。どうにも評価しずらいそれを切り落とし、私はシロちゃんの護衛計画を練る。今のままでも出来る事を……そう考える私の背後からマネージャーが近づいて来るのを感じた。彼はシロちゃんにつかせていたはずだが……叱責しようと振り返って見れば、微妙な顔。何事だろう?
「お嬢様、関東で動かしていた、シロ民を名乗る一般人達から連絡があったのですが……」
「なに?」
「いえ、その……なんというか」
普段ではあり得ない程に言い淀むマネージャーを視線で強く叱責し、先を促す。そうすると彼はやはり暫く言い淀んだが、やがて言葉を発した。
「モンスターボールを発見、確保した……と」
「っ!」
何という事か、何という事か!
私はマネージャーを置いて走り出した。普段なら絶対にしないが、今は時間が惜しい。この一報を早くシロちゃんに伝えたい。他でもない、この私が!
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