エイプリルフール企画 IF崩れた日常
怒号と、悲鳴。第3臨時戦闘群の作戦指揮所は混乱のルツボにあった。辛うじて統制が取れているのは……青暴龍の群れ相手に逃げ場なんて思い付かないからか。少なくとも、誰も彼も絶望に顔を歪めている。
この絶望に、予兆なんてなかった。充分に警戒しながら避難民を護衛し、一団が大きな池を通り過ぎ始めたとき、彼ら青暴龍は池の水面を割って現れ、一団向けて一斉に襲い掛かって来たのだ。
先ず始めに近くにいた民間人が吹き飛び、続いて彼らを護衛していた新兵が消し飛ぶ。それからは被害を出しながら避難民を落ち着け、統率し、逃がし、そして……地獄の遅滞戦闘が始まったのだ。
その結果は……指揮所を見るに明らかだろう。避難民は逃せたが、代わりに自分達が消し飛ぶ事になった。誰に恨み言を言えばいいのか、何が悪かったのか、それすら定かではなく、彼らはゆっくりと絶望に身を浸していく。
しかし……そんな猶予すら許されず、絶望と相対する事になった者達もいる。今、前線で戦っている者達だ。
「う、うわぁぁぁ!? あ、足がぁぁぁ!」
「ジョージがやられた!」
「こっちも駄目だ! 助けてくれぇ!」
「チクショウ! 奴らアサルトライフルを豆鉄砲みたいに!」
「駄目だ、勝てる訳がない……!」
「後退! 後退しろー!?」
「慌てるな! 落ち着いて対応しろ!」
「隊長! 暴龍が光線を━━」
「なっ━━!?」
「た、隊長がやられた!」
「そんな! 俺達はどうれば……うわぁぁぁ!? こっちに来るなぁ!」
「バカ野郎! 騒ぐんじゃ━━ギイヤァァァ!?」
「ふざけるな! ふざけるなぁぁぁ!」
怒声と悲鳴、怒りと絶望。思うがままに剥き出しのまま吐き出されるそれらは、間違いなく彼らの本音だ。何故、どうして、こんな事に、こんな事を、何故自分が。
困惑する者は弾け飛び、絶望した者は瓦礫に潰され、怒りを持った者は……血に濡れた武器を手に取る。
「頭の中でギャンギャン煩いんだよっ……! この、ヘビ畜生どもがァァァ!」
この騒動が始まってから無秩序に情報を頭に送り込まれ続け、また自分を肯定出来ない男は発狂していた。もし彼に夢があれば、理解者が居れば、仲間が居れば……それはもう、叶わないifだ。
そして、男は手に取ったRPG-7を青暴龍向けて構える。真っ直ぐこちらに向かって来る傷だらけの暴龍を睨み、待ち、両者がぶつかりあうその寸前、引き金が引かれる。
一瞬。爆発音━━
青暴龍の口内に叩き込まれたRPG-7はその威力をいかんなく発揮し、暴龍を内側から粉砕してみせた。そしてその近くにいた男も。
あぁ、男が最後に見た光景はなんだったのだろう? 最早それを知る者は誰もいない。
暴龍達は自らの同族の亡骸を気にする事もなく、当然それを討ち取った戦士の生死も気にせず、怒りの表情のままに進撃を開始する。
彼らの目的は何なのか、知る者は……『彼女』は、ここにはいない。
━━この日、陸上自衛隊第3臨時戦闘群は文字通り全滅した。青暴龍に蹂躙されたのだ。更に第2、第4臨時戦闘群も壊滅しその損害から立て直しは絶望視された。
そして、彼らが辛うじて作戦を成功させた3日後。アメリカ主導の関東全域に対する全力核攻撃が実行された。大陸からは大陸間弾道ミサイルが放たれ、近海に潜んでいた潜水艦からはトライデントミサイルが発射される……そのどれもに核弾頭を乗せて、怪物の楽園となった関東地方へと向かい──その全てが、突如として現れた未確認生物により迎撃された。
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