ハーメルン
ポケットモンスター 侵食される現代世界
第1話 最初の異変


 気楽な調子でお爺さんから手渡された青いナニカ。手に取って見るとそれはナニカの果実の様だった。直径は4cm程。軽くつついた感じだとかなり硬い。見た目はミカンに似ているが、どうしようもなく青かった。……私の知らない果実だ。頭の奥の方がチリチリするが、こんな果実は聞いた事が無い。新種だろうか? 
 ポチが下から興味深けに果実を見ているのを横目に、思案する事数秒。老夫婦はこの果実について唐突に語り出す。不気味な話なのじゃが、と。

「その果実は今日朝起きたらそこの、ミカンの木に成ってあったんじゃ。のう婆さん」
「えぇ。この木のミカンは少し前に全部取ってしまったからいったい何なのだろうと、お爺さんと首を傾げていたんですよ」
「うむ。それも五個も成っておったからな。一つはカラスに食われて……いやまぁ、アレはつつくだけつついて捨てただけじゃろうが。まぁ兎に角グシャグシャじゃ。一つはワシが食ったが……」
「え、食べたんですか? コレを?」
「うむ。不味かった。辛かったり、渋かったり、苦かったり、酸っぱかったりする、変な味じゃった」
「切るのも大変でしたよ。ものすごく固かったから……昨日研いでなかったら切れなかったでしょうね」

 不味かったって……こんな色だし、その味はもう毒では? それにこの家の包丁はそうとうな業物だったはずだ。以前自慢された覚えがある。それで大変? 少なくとも食べる物ではないのでは? 
 薄い胸に込み上げた思いを苦笑いで封殺しつつ、改めて青い果実を見る。━━やはり知らない。だが頭の奥の方がチリチリする。……私は知っているのか? こんな訳の分からない果実を? 

「……お爺さん。この果実はこの一個だけですか?」
「いや、それと合わせて手付かずのが三つじゃ。なんじゃ、欲しいのか?」
「はい。家に持って帰って調べようと思います」
「そうか。婆さん、持って来ておやり」
「私は知りませんよ? お爺さんが持って行ったではありませんか」
「そうじゃったかの? ううむ、どこに置いたのか……」

 お爺さんが縁側から日本家屋の中へと力無く入って行くのを見送りつつ、私はお婆さんが「あの人はこの頃ボケが酷いのよ」などと言うのに相づちを打っていた。
 ……ポチは相変わらず私の手の内にある青い果実を眺めている。不思議そうに。

「あったあった。玄関に置きっぱなしじゃった。ほれ、これが残りの青いのじゃ」
「有り難うございます。……では、私はこれで。何か分かったら連絡しますね」
「あら、急がなくても良いのよ?」
「いえ、私も気になるので」

 私は青い果実をジップパーカーのポケットに突っ込み、名残惜しそうな老夫婦に一礼してから、フードをより深くかぶってポチを連れて家へと戻る。頭の奥の方からチリチリとこちらを刺激する何かに急かされる様にして。足早に。

「疲れた……」

 そうして家に帰った私はリビングの机にお爺さんから受け取った青い果実を転がし、ジップパーカーを脱いで手短な椅子に引っ掻ける。これでシャツとズボンという何時ものラフな部屋着に戻れた。パーカーを元の場所に戻すのは……後でいいだろう。
 そうして相変わらず果実を見つめるポチからリードを取り外し、自由にしておく。彼女は賢いからこの状態でも家の中、あるいは庭に出るだけで、敷地の外から出たりしないのだ。それに大きく頑丈な柵もしてあるし。そう思ってリードを外したのだが、どういう訳か彼女はその場から動かない。いつもなら庭に出るか日当たりの良いところに行くのに……余程この果実が気になっている様だ。

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