第1話 最初の異変
「ポチも気になるの?」
「わふ」
「そっか、なら少し待っててね」
私は一度自室まで足を動かし、そこからスマホを取ってリビングへと戻る。ポチは、お行儀良く待っていてくれた。彼女の為にもサクッと検索をかけてみるが……
「ヒットしない。調べ方が悪いのかな……ん?」
某事典サイトにはそれらしい果実は載っていなかった。が、いつもならスルーするピックアップニュースに視線が釣られる。タイトルは『日本各地で起こる果実の異変』だ。
「これは、ふむ……なるほど」
そこに書かれていたのは老夫婦の家で聞いた様な話が日本各地で起こっているという話。載せられた記事と写真を見るに、ミカンだけでなくイチゴや梨、サクランボや桃、その他多数の果実が似たような状況らしい。形や色がおかしかったり、桃を除いて酷い味になっているようだ。専門家曰く━━うん、言い訳がましい言い回しだが、要するに分からないらしい。この事例が最初に確認されたのは……関東地方との事。
「…………」
チリチリと頭の奥が煩い。緑に変色した、苦いイチゴの写真を睨み付ける。
私は知っているのか? この果実達を。
いや、知らないはずだ。私はただの転生者。何の転生特典も持たない、ただの転生者だ。それが専門家もお手上げな果実を知っている? 酷い幻想だ。
「わふぅ?」
「何でもないよ。……ご飯にしよっか」
不思議そうなポチの声を切っ掛けに、私は幻想と頭の奥の煩いチリチリを脳内から蹴り出した。夢を見るなと。
その変わりとばかりにポチのご飯を出し、自分のご飯もまた適当に済ませる。
それから時間が過ぎていき、二度目の散歩も終わらせ、夜が来て、今日は庭の犬小屋で寝るらしいポチを見送り━━私は自室で最近新型に買い換えたパソコンを前に少しだけ緊張していた。パソコンの置かれた机の端には青い果実が三つ。頭の中は相変わらずチリチリと閃きが足りないとばかりに煩いが……まぁ、それも話題にはなる。
「さて、始めますか」
私はマウスを操作して、ポチりと。配信開始のボタンを押した。
[9]前 [1]後書き 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:3/3
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク