第22話 不可視の思惑
日本政府がポケモンを認めてくれて……一ヶ月と少し。私は相変わらず伊藤家別荘に用意された自室でのんびりと過ごしていた。
いや、何せポケモンが順調に出現していっている以外には特に変わった事もないので、自然と私も暇になるのだ。まぁ、ここ数日は女の子特有の理由で体調が悪かったけど……それも治ったし、本格的に暇だ。
━━思えば、アレにも慣れちゃったなぁ……
最初こそ突然の出血と体調不良に酷く困惑し、ダルい身体でネットを駆け回る事になったが……今となっては冷静に対応出来る。強くなったと誇るべきか、男の心が消し飛んだと嘆くべきかは分からないが。
「んー……何しよっかなぁ」
終わった事はさておき、この状況での暇というのは良くない。何せ周りがいそいそと働いているのに自分だけのんびりしているのだから、罪悪感が凄まじいのだ。コラッタニキの話なんかを聞くと特に。
なので私も何かしたいところだが……手に職は無く、まさか毎時間配信する訳にもいかない。どうしたものか。
━━んー? ……リモコン、どこに置いたっけ?
特に何も思い付かないし、差し当たり暇潰しにテレビでも見よう。そう思い至った私は部屋からリモコンを探し出して、何となくテレビの電源を付ける。
普段見ないからこの時間に何があるのかサッパリなのだが……ふむ、どうやらどこかのライブ映像の様だ。演者は……おぉ、あの二人か。
『バタフリー! “ぎんいろのかぜ”!』
『ピカチュウ、“十万ボルト”』
バタフリーが広く散らした銀のリンプンに、ピカチュウの十万ボルトが次々と突き刺さって激しく稲妻を散らす。出来上がるのは雷の神殿、幻想的にしてエレクトリックなステージの出来上がりだ。流石に何日も練習しただけはある……生で見ている人達は圧倒された事だろう。何せ未完成のソレですら凄まじい迫力だったのだから。
『さぁ! 早速一曲目に行きましょう! 最初は━━』
そして雷の神殿が消え去り、元のステージに戻った舞台で二人は歌を歌い始める。歌の良し悪しは分からないけど……たぶん上手いのだろう。少なくとも聞いていて嫌になったりはしないし、むしろ楽しくなってくる。流石はアイドル。
「こうして歌ってるの見るの、始めてだけど」
彼女達との出会いはバラバラだ。バタフリーのポケモントレーナー……カオリとは悔いの残る最初のポケモンバトルの日で、ピカチュウのポケモントレーナー……サキとは私が雑誌のインタビューを受けた日。最初は仲がいいとはお世辞にもいえない仲だったけど、今ではよくポケモンの事━━主に自分達の相棒の事━━について話す仲だ。先日も先ほどのパフォーマンスの練習に付き合っていたし、むしろ仲が良いのではないだろうか……?
━━その割には彼女達の仕事には一切興味を持たなかったけど……
アイドルの仕事が何なのかはサッパリだが、少なくとも私から歌をねだった覚えは無く、せいぜい鼻歌を耳にしたくらい……いや、ポケモンの事を話せるからついついその辺りの気遣いがスッ飛んでいたのだ。彼女達のプライドを傷つけてなければ良いのだが……
『フリフリャー』
『ピッ、ピカチュー!』
そうこうしてるうちに二人の歌はサビに入ったらしく、曲のテンポが上がり、バタフリーとピカチュウによる演出もより一層強いものになっていた。
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