ハーメルン
ポケットモンスター 侵食される現代世界
第4話 蠢くワガママな悪意

「しっかしシロちゃんって何者だろうなぁ?」

 丑三つ時を過ぎようかという暗い闇夜の中、真新しいLED照明が照らす公園の端でゴソゴソと蠢く影からそんな声がする。
 蠢く影の正体はまだ若いといっていい男だ。ラフな格好をした怪しげな男はぶつぶつと何やら呟きながら、手に持った小さなスコップで土を弄くっている。空いているはずのもう片方の手には青い果実……オレンの実が握られていた。

「黒幕? あの小ささで? 無いな。なら預言者か? いやいや、威厳なさ過ぎだろ」

 男はまるで鼻歌でも歌うかの様にぶつぶつと呟きながら土をいじくり、深さ5センチ程の穴を掘り上げる。

「んーと? で、どうするんだっけ?」

 そこまで掘った男はスコップを捨て置き、ポケットからスマホを取り出して何やら調べ始めた。
 それは暫く続いたが、男は唐突にスマホの電源を落としてポケットになおし、地に置いたスコップを手に取る。満面の笑みで。

「案外楽だなぁ。きのみ。んーと、これは少し深すぎるか」

 何が嬉しいのか、男は掘った穴を少しずつ埋め戻す。その有り様は警察に職務質問されてもおかしくはなかったが、しかし、ここが真新しいマンションに囲まれた公園とはいえ今は深夜。幸か不幸か、男の行動を問い質すものはいなかった。

「んで、きのみで土が膨らむ感じで埋めるんだな」

 いや、恐らく、問い質すものがいなかったのはお互いに取って最善だったのだろう。
 もし男になぜそんな事をしているのかと問えば、延々と『シロちゃん』について語られただろうから。それこそ、狂信者の様に。

「ふんふんふーん」

 もし仮に、男に『シロちゃん』の何が良いのか、一言だけ述べよと問えば……男は迷いに迷った挙げ句にこういうだろう。「夢を見させてくれる存在」と。男にとってシロちゃんは女神といっても良い、そんな存在だった。
 男とシロちゃんの出会いはもう三年以上も前。ネットの海を泳いでいるときに聞いた事の無い『ポケモン』という単語を偶然見かけ、ひかれて興味本位で生放送に飛び込んだのが始まり。それから先は……ただ、魅せられた。彼女の絵、彼女の声、彼女の語り。全てが素晴らしい。故に男はその全てに魅せられ、しかしその上で━━それ以外の要素で虜になった。彼女が夢見る、夢に魅せられたのだ。

「んー、こんなものか? いや、もう少し土を退けとくか」

 別に彼女が夢を語った訳ではない。
 だが、彼女の描いている絵から、絵を語る声から、『夢』が伝わってきた。ポケモンに対する深く、純粋で、しかしねじ曲がって淀んで、汚れたキレイな夢。男はそれにこそ魅せられ、そしてそれからは同じ夢を見た。ヒビ割れた宝石の様な、叶わない夢を。その時間は苦く、痛く、辛く、だからこそ、甘美で素晴らしい時間だった。
 男はいう。『シロちゃん』は夢を見させてくれる女神なのだと。

「……うん。完璧。よし、他のところにも植えるか」

 だから、だろうか? 女神が夢見た叶わない夢が、現実になったと聞いて、いてもたってもいられなかったのは。こんな夜更けに外に出て、やったこともない土弄りをする程度には、男は『シロちゃん』に尽くす事が出来た。

「ふんふんふーん」

 そんな男の有り様の一端を知るネットの仲間達は、男の事をこう呼ぶ。ドM犬兵、その鑑だと。

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