ハーメルン
RELEASE THE SPYCE ~満ちたる月の兄妹~
EPISODE:002 Burning Heart
『半蔵門先輩とも会話できちゃった♡』
『しあわせ』
『え!マジで!おめでとう!』
結愛とLINEで話して、改めて喜びと実感が湧いてくる。
「半蔵門先輩…♪嬉しい嬉しい……!えへへ♪」
ベッドに顔を埋めて足をバタバタ、喜びを噛みしめる。我ながら随分と顔が緩んでそう。人には見せられないや。
顔を上げた拍子に視界に時計が入る。9時…もう連絡がきてもいい頃なのに…
「歩さん遅いなぁ…何かあったのかな?」
なんとなく嫌な予感がして、思わず昔のことを思い出す。
──『本職は任務に戻ります』
──『いってらっしゃい!』
あの一言がお父さんと交わした最後の会話になった。
お父さんはあの後、事件に巻き込まれて殉職した。
───もし、歩さんも同じようなことになってしまったら?
そう考えたら、私の行動は速かった。家を出て、自転車を飛ばして歩さんの匂いを辿る。
運がよかったみたいで、お母さんはぐっすり眠ってた。"嫌な予感がする"って理由は1人で夜の街に出るには不十分過ぎるもんね。確か、歩さん…
──『扇町の方を見回って休憩だから』
って言ってたよね?よーし…!
「扇町っ!」
歩さんの匂いを追ってここまで来たけど、やっぱりいない。自転車漕ぎ過ぎて疲れた私は、郵便局の近くの階段に腰かけた。
「はぁ…歩さんの匂い、確かにするんだけどな…」
半分くらい諦めかけた時、春にしては少し冷えた風が私の頬を撫でた。その風に乗って、歩さんの匂いも少し流れてくる。
「ふんふん…あっちだ!」
匂いを追うと、少し先に倉庫地帯がある。そこに、誰かいる。1人、2人じゃなくて…もっと大勢。
「何……?」
頭のどこかで引き返した方がいい、という声が聞こえた気がした。
でも、やっぱり好奇心には逆らえない。身を隠しながら、倉庫地帯に入っていく。コンテナの影に隠れて見てみると、2人の婦警さんが捕まっていた。しかも、1人は歩さん──!?
「サツに見つかるなんてねぇ…これだから、お前たちとの取引は嫌なんだよ」
「ど…どどどどどうしよう……」
あからさまにマズい感じ…これ絶対、犯罪的な何かが行われてる現場じゃん!
「そ、そうだ!警察っ」
私が通報しようとした時。
刃物のような金属音が聞こえた。
「さっさと片付けて逃げましょ」
ううん、筋骨隆々な女の人が本当に刃物を取り出して、歩さんに近づいている。
「ふふ〜ん、クッキング開始♪」
どうしよう!?これじゃあ、連絡入れてる時間もない…また体が動かなくなる。
また…こうやって固まってるだけなの?
本当にそれでいいの?
………
…いや、ダメだ……
[9]前話
[1]次
最初
最後
[5]目次
[3]栞
現在:1/8
[6]トップ
/
[8]マイページ
小説検索
/
ランキング
利用規約
/
FAQ
/
運営情報
取扱説明書
/
プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク