8話 UC0069年8月②
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メイ・カーウィン
「お父さんがそんな事するハズない!」
何度私はそう周囲に訴えた事だろう。だけど周りの返事はどれだけ繰り返しても何もかわらなかった。
「でも君のお父さんの荷物から爆弾が発見され、君のお家のパソコンからも爆弾テロを計画したデータが見つかっているんだよ。」
前に私が見た時にはそんなデータなんて何処にもなかったと言っても、容疑者の身内で子供の私の証言など誰も信用してくれない。
そんなやり取りを何度も繰り返している内にやって来たのは、父が取り調べ中に急病で死亡したと言うさらなる凶報だった。
健康だったハズの父が突然急死するハズもないのに急病だと言われ、その亡骸を求めても捜査中を理由に拒否され、結局父が私の元に帰ってきてくれた時にはその姿は骨だけになっていた。
その後、父の遺骨とともに親戚の所へお世話になる予定だったが、爆弾テロ犯の娘など面倒をみれないと断られてしまい、行き先の無くなった私は国の運営する孤児院に入る事になった。
そしてその孤児院の中は私にとって外の世界以上に地獄のような場所だった。世間に流布されている情報しか通じない孤児院の中で私は凶悪な犯罪者の娘であり、それはつまり私が凶悪な犯罪者として扱われるのと同義だった。
孤児院で一番狭く汚い部屋に押し込まれ、僅かな私物も取り上げられた上に、私がテロをおこさないようにと自由は極端に制限された。そして、そんな私は孤児院で抑圧されている子供達にとって格好の苛めのまとだった。日々繰り返される苦しみの中で私が父の後を追いかけようかそう思い始めたその時、その人は現れた。
「カーウィン!すぐにこの服に着替えて応接室まできなさい!」
孤児院の職員が以前に没収した私の服を持って随分慌てた様子で部屋に入ってきた。言われた通り服を着替えて応接室に入ると、そこには思いもよらない人が私を待っていた。
「はじめましてカーウィン家の娘よ。ギレン・ザビである。」
「は…はじめまして…。メイ・カーウィン10歳です…。」
「ウム。先ずはお父上のご冥福をお祈りさせて頂こう。」
父を殺したザビ家の人が何を…。事務的な表情で言う目の前の男に思わずそう思っても、今の私にそれを口に出す勇気はなかった。
「信じて貰う事は出来ないだろうが、私は君のお父上がテロを起こそうとしていたとは考えていない。故に君が謂れ無き罪で苦しんでいると聞きほうっておけなくてな。君さえ良ければ、私の屋敷にくる気はないかね?」
「…。え?…。」
「君のお父上の無実を証明する事は私には出来ない。その権限が私にはないからな。だが、君をこの施設から出し不自由のない生活を送らせてあげる事ならばできる。それにザビ家の後ろ盾があれば不要な嫌がらせを受ける事もなくなるだろう。」
「…。それは…。そうかもしれないけど…。」
「もし屋敷に来て、それでも此処に戻りたいと思うなら直ぐに戻れるように手配しよう。それでどうかね?」
「…。本当にお父さんが無実だと思ってくれているの?」
「確証はない。しかし、君のお父上がテロを起こす必要はどこにもなかった。だからそう思うだけだ。」
…。正直ザビ家の事は憎い。でもこの人は私の知る大人の中で只一人自分から、お父さんが無実だと言ってくれた。そんな人の所ならこんな場所に居るより多少はましかもしれない。そう思った私は、意を決して口を開いた。
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