ハーメルン
世界から季節が消えるまで
中編 浮世を忘れて君と踊りたいよ


『御来場の皆様、間もなく祭りの開幕です。今夜だけは夜通し楽しみましょう――』

「結構あっという間だったね。それにしても、結局今年もボクの作戦勝ちだね。ここまで来たんだから楽しもうよ」

アナウンスが流れる中、意地悪そうな表情を浮かべながら声をかけてくる美桜ねぇ。本当に憎たらしいねぇちゃんだ。

『それでは開幕です。皆様、お手を拝借。Clap your hands!』

アナウンスの後、辺りに一斉にクラップ音が鳴り響き、祭りが始まった。――それにしても、何故クラップするんだろうか?



始まった祭り。あちらこちらで人の笑い声が聞こえてくる。大人も子供も関係なく、無礼講と言うやつだ。楽しそうに騒いでいる。
そして、中央のステージでは、先程のあれでは物足りなかったのか、美桜ねぇが踊っていた。元からダンスをやっていた彼女は動きにもキレがあり、ステージ映えする。見物客からも好評だ。

「さて、そろそろ本気出しちゃおっかな!」

おもむろに彼女はそう言い、上着を脱いだ。露出度の高い衣装が顕になる。

「何やってんだよ……」

僕は頭を抱え思わず小声で毒づいてしまった。

「それじゃあ、改めて踊ります!」

――だが、夜桜に月明かり、そして美少女。その三つが調和し、彼女の踊りは更なる高みへ至る。僕も思わずそれに見蕩れてしまう程には。

「ありがとうございました!」

気がついたら彼女の踊りは終わり、ステージを降りているところだった。驚いたことに、ずっと目を奪われていたらしい。

「明、待たせてごめん」

ステージから降りた彼女が僕に話しかけてくる。

「え、あ、うん。大丈夫。」

まだ、さっきの熱に浮かされていたのか、気のない返事をしてしまう。

「おっけー、ならちょっとあっちの屋台の方に行ってみようか」

そう言ってこちらに手を差し出す彼女。ちょうど月明かりが美桜ねぇを照らしていた。そして、快活に笑う彼女の笑顔に、僕の胸に今まで経験したことの無い感情が走る。
ちょっとした困惑の後に僕は気づく。
――もしかして、これは恋なのではないだろうか?
そう思った瞬間、彼女がより美しく見えて、目を逸らしてしまった。
まだ祭りは長いのにこれからどうしよう。

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