第2話
我はツアイツ・フォン・ハーナウ、今は無きルトライン帝国の宮廷魔術師の筆頭だった。
王族の末端、4人目の側室の次男という微妙な位置に生まれた王位継承権第11位の王子だった。
王位継承権も二桁にもなれば誰も次期王になれるとも思ってないし母親の親族も権力争いの中で徐々に宮廷の中での権力を失っていった。
どうでも良い王族として、この先他国への人質か婚姻外交の駒として実の父親からも思われていた籠の鳥が幼少時代の我だ。
だが人生の転機とは意外な所からやって来た。
人質として送られたハンザ共和国で知り合った一人の老魔術師に出会い、そして魔術の素質を見出され彼に師事した。
ブルクハルト先生は人質だった我に惜しみなく魔術を教えてくれた。まるで我が子に対するような親身さで……。
我は親の愛情を知らないで育ったので、ブルクハルト先生を師とも父親とも思い人一倍努力した。
皮肉にも、この人質時代の5年間が我の人生で一番幸せだった、輝いていた。
尊敬する師の下で魔術を学び、誰にも期待されていなかった我が徐々にだが周りから認められていった。
気が付けばブルクハルト先生の弟子達の中で一番になっていた。
だが人生とは皮肉なもので魔術師として一人前として名乗れる程になった頃、突然の祖国への帰還命令。
そして我が祖国ルトライン帝国はハンザ共和国に宣戦布告、我は戦場で師と戦う事となった。
結局、我はルトライン帝国にいいように使われた人生だった、幾多の戦場に駆り出され妻さえも権力争いの道具として負かした国の姫を娶った。
自分の国を蹂躙した相手に身を任せる忌まわしさの為に最初の妻は新婚初夜の翌日に自害した。我に恨み言を綴った手紙を残して……
結局我の最期も我の力を恐れた王が周辺諸国を統一した後に、戦争の全ての罪を濡れ衣という形で我に被せて処刑し、国民の不満を我に押し付けて自分の政治基盤を強固にしたのだ。
王が我を疎ましく思っているのは分かっていたのだが、血の繫がった息子を殺すとは考えてなかった。この甘さが命取りになった。
我とて黙って殺される心算は無く、この魔法迷宮を造り死後の魂を腕輪に封じ込めた、何時の日かこの迷宮を制覇した者に憑依し転生する為に。
我には神より授かったギフト「空間創造」が有り、自分だけの魔法迷宮を持つ事が出来た。
この魔法迷宮に財産の全てを収納し魂を封じた腕輪を残した。何時か誰かがこの魔法迷宮に訪れると信じて……
魂の抜けた我の肉体は普通に処刑されたみたいだがな。
だが300年以上も待って初めて現れたのが、この眼下に眠る連中だ……。
「戦士か、魔術師としての我の父親としてどうなのだ?
我はもう権力争いなど懲り懲りだ、第二の人生は自由気ままに生きてみたいから丁度良いか?
地位も権力も邪魔でしか無い、溜め込んだ私財は豊富だから生活には困らない。冒険者として生きるのも一興か?」
いくら転生しようが永く生きようが甘い性格を矯正する事は出来ないかも知れないが、次は自由な生き方がしたいのだ。
◇◇◇◇◇◇
戦士の記憶を読む……。
「ふむ、男爵家の次男か……微妙だが王弟からの依頼を達成したとなれば地位は上がるやもしれんな。だが逆に我が転生し魂が定着するまでの無防備な10年間を無事に守り過ごすだけの力は有るだろう」
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