ハーメルン
百合の少女は、燕が生きる未来を作る
Event「最初のtrickと今のtrick」

 ハロウィン、それは元を辿れば秋の収穫祭や、悪霊などを追い出す宗教的な意味合いのある行事だった。
 現在では、子供が『trick or treat(お菓子をくれないといたずらするぞ)』と言う言葉を合図に仮装してお菓子をもらいに行く、面白可笑しい行事ーーもといイベントになっている。


 そして、今日はハロウィン(十月三十一日)だ。
 刀剣類管理局本部に居る刀使の少女たちも浮き足立っている。


 仮装して友達とお菓子交換をする者たちが目立つ中、一人の少女は給仕服にうさ耳のカチューシャを付けて、指令室にてトレイに山盛りに置いてあるクッキーが入った紙袋を職員に渡していた。


「お仕事お疲れ様です。ハロウィンですのでクッキーをどうぞ」

「ありがとう百合ちゃん。助かるよ」


 丁寧に丁寧に、何時もお世話になっている職員の人たちにお菓子を配る百合の姿は、さながら本物のメイドや侍女そのものだす。
 彼女の言葉遣いも、らしさを際立たせている。


 それを結芽は、傍からぼーっと見つめていた。
 何かを手伝う訳でもなく、ただぼーっと百合の姿を見つめる。
 見惚れている…と言うのもあるが、それ以上に感慨に耽っているようだ。
 視線は百合の事を見つめながら、どこか遠い過去を見つめていた。


 そう、それは……
 出会って、自分が病気になる前のほんの少しの時間の出来事。
 百合と結芽、二人だけしか知らない、秘密のハロウィンパーティーの記憶だ。

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「ハロウィンパーティー?」

「そっ。私の家、今日はパパとママが居ないからさ、二人でしよ?」

「…ハロウィンって、秋の収穫祭や悪霊を追い出す宗教的な行事なんだよ? 結芽、つまらないよ?」

「……………へっ?」


 当時、小学生低学年でありながらも百合はゴリゴリの文系女子。
 現在のイベントのようなハロウィンに置き換わる前の、行事としてのハロウィンを知っていた。
 逆に、百合は今どきのイベントとしてのハロウィンを知らない。
 箱入り娘、とはいかないが、それでもお嬢様に変わりはない。


 ハロウィンに彼女の家を訪れる者は誰一人として居ないので、百合が今のハロウィンを知ることは出来なかったのだ。
 …流石の結芽もこれには驚き、何とか身振り手振りも加えて説明した。


 説明に苦節十分、ようやく理解した百合と共に、二人はスーパーに出掛けていた。


「仮装用の服は家にあるから~、お菓子買って行こー!」

「良いけど。仮装用の服は何があるの?」

「えーっとねー、化け猫とー、ドラキュラとー……」


 結芽が楽しそうに仮装用の服の候補を言っていく中、百合は何故か少し視線を逸らしてある物を見つけた。
 それは、『簡単クッキーセット』と銘打たれた商品だった。
 値段は千円と高いが、無性に惹かれるものがあり、百合は吸い付くように商品を手に取る。

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