第十九話 悩みの訳
これまで着ていた白と赤の制服とは今日でお別れ。上下黒一色の着物に袖を通す。髪はいつもの如く『散らない桜』で一部を結い上げた。
「……よし」
鏡を見て身嗜みを整え、気合いを入れ直す。
雲居朔良の、正式な『死神』としての始まりの日。
「はあ……」
馴染みの茶屋で一息。団子を頬張る。入隊の儀が終わって明日からの説明も済んだ帰り道だ。
そこへよく知った霊圧が近付いてくるのを感じ、意識をそちらに向ける。
「さーくらちゃん。入隊おめでとおー……ってどないした?」
「真子さん」
謀ったかのように現れた彼には、零れた溜め息が聞こえていたらしい。店の前にある長椅子に座る朔良の正面に立ち、顔を覗き込んでくる。珍しいことに一人だ。
「藍染副隊長は連れてないんですか?」
「また惣右介かい。アイツは今日は隊舎に留守番や」
「真子さんはここで何を?」
「息抜きや息抜き。たまには仕事場出てパーッと気ぃ晴らさんとなあ」
「今日は今期の新人の入隊日で入隊の儀が終わった後も隊長格は今後の予定決めで忙しいと聞きましたが」
「……どっからの情報や?」
「六」
「朽木隊長かー……。って朔良ちゃん君、えらい機嫌悪いな」
いけない、ついつい八つ当たりをしてしまっていたようだ。何と子供っぽいことだろう。やはりまだ未熟、そう思うとますます情けなくなってくる。
「……何と言いますか……」
「入隊の儀で何かあったんか?」
心配そうにその場にしゃがみ込む平子。……ここまで聞こうとしてくれているのだ、この際全てぶちまけてしまおう。
「真子さん」
「おう」
「私今日入隊したんです」
「知っとるわ」
「十五席に入ったんです」
「お! 席官入りか。凄いやないか」
「二番隊なんです」
「君のお師匠さん兼お姉さんの隊やな」
「そこなんです!」
ビシィ! と指を突きつければ、彼は僅かに仰け反った。
「な、何や? 白哉やギンのこともあるし、十五じゃ不満やったんか?」
「何で私が入隊早々席官入りなのでしょうか!?」
「そっち!? そっちなんか!? 意外と謙虚やな君!」
何か知らないが驚いている。そっちってどっちだ。っていうか十五じゃ不満って何のことだ。
「何人もの隊長格に相談したにも拘わらず、結局始解できなかった私が何故席官に!」
「いや……十五席くらいの席次やったら始解できへん奴もおるで……?」
「しかも二番隊! 私のこと知ってる人は割と居ます!」
「割となんやな……」
「周りの視線が痛いです!」
「そりゃ同隊隊長のたった一人の弟子なんやから目立つやろ」
「特に十五席未満の方々の視線が鋭いです!」
「あー……そりゃ……」
「コネだのズルだの何だの囁かれてます!」
たじたじ気味だった平子は、最後の一言に目つきを変えた。顎に手を当て、何か考えている様子である。
「そいつはちょいとあかんなあ。夜一に相談してみるわ」
「結構です」
「何でやねん!」
何でやねんって。答えなど決まっている。
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