第五話 子供の才
両腕に一塊りの風呂敷包みを抱え、屋根に登る小さな少女。とんとんと足場を確認していたかと思うと、彼女は風呂敷の中身を勢いよくばら撒いた。同時に屋根を蹴り、瞬歩を駆使しながら落ちていくそれらに手を伸ばす。ざっと見て十数個あるそれらを空中で拾っては片腕に収め、最後の一つが地に落ちそうになり、それを追いかけた彼女自身も地面に向かって――という所で手を出した。
「何をやっとるんじゃ、お主は」
顔から地面とこんにちはをしそうになった朔良の首根っこを掴み、夜一は呆れ声で訊ねた。
「お主なりの瞬歩の訓練だったわけか」
「そうなのですー」
えへん、と胸を張る朔良に「怪我をするようなやり方をするな」と軽く叱責する。
彼女がばら撒いたのはお手玉の山。数日前、暇潰しにでもなればと与えていたものだった。落ちるお手玉を瞬歩で追い、空中でキャッチする。アイデアはいいかもしれないが、瞬歩の多用で伸びてしまう朔良には少々早い修行法だろう。
むぅ、と唸る彼女は真剣に修行法の変更を考えているようで
「ならもうちょっと低い木の上からにしてみようかな……」
「そういう問題じゃなかろうが!? というかある意味もっと危険じゃぞ!?」
思わずつっこんだ。彼女が妙なところで天然ということは、共に暮らし始めてすぐに判ったことだった。
知らず知らずのうちにペースを持って行かれてしまうこともしばしば……と、今がまさにその状況になっていることを自覚し、ようやく元々の用事を思い出した。
「そうじゃ朔良、今日はお主をある所に連れていこうと思っておったんじゃ」
「連れていく? そういえば夜姉様、今日はお早いお帰りですね」
「早めに仕事を切り上げられたのでな。では、ゆくぞ」
ひょいと抱き上げて肩に座らせ、瞬歩を使う。出会って三週間足らずだが、既に肩は朔良の定位置となっている。
「どこに行くんですか?」
「着いてからのお楽しみじゃ」
「……なんか、夜姉様楽しそうですね」
「む、そうかの?」
「はい。なんていうか……大事にとっておいたお菓子をいよいよ食べますよーっていうような……」
「……その表現は、どうかの」
しかし当たらずとも遠からずだと思う。実際、楽しみで仕方ないのだから。
あっという間に着いた先。四楓院家と遜色ない大きさの門と、これまたいい勝負の大きな屋敷。
朔良を降ろし、門番に一言声をかけてから門をくぐる。初めての場所できょろきょろと落ち着かない様子を見せる彼女は、最早何度も見たものだ。
だから――気付かなかったのかもしれない。
勝手知ったる広い庭。今は桜が咲く中をすたすたと横切り、この屋敷の主の霊圧へと近づいていく。
視界に入る所まで行けば、目的の人物達もこちらに気付き、腰かけていた縁側から立ち上がった。
「よくぞいらした、夜一殿」
「しばらくじゃな蒼純。身体の調子は良いのか?」
「ええ。ここのところは別段酷いこともありませぬ」
「それは何よりじゃ」
「それより、どうしたのだ夜一? お主が前もって私達に訪問の連絡を入れるなど珍しいではないか」
そう、今回ばかりは数日前に予定を空けて置いてくれと伝えていた。六番隊隊長兼朽木家27代当主朽木銀嶺と、その息子であり同隊副隊長でもある朽木蒼純、この二人に。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/4
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク