ハーメルン
孤独な歌、孤高の姫
2話

 ──孤高の歌姫と出会って数日。

 あの日以降特に連絡を取り合うわけでもなく、いつもと変わらない日々が過ぎていた。
 もともとあの場にいたのは偶然で、彼女と話したのも奇跡のようなもので、これが俺の日常なのだ。だけど心では彼女の何かでありたいと思うもので、気づけば連絡先を開いてしまう。
 だからといって何か送るわけでもなく、そっとスマホの画面を閉じてしまう。

 布団から飛び出しリビングへと降りるが人の気配がない。テーブルの上には書置きが残っており、父さんの汚い字で俺に向けてのメッセージが残されていた。

『これから一週間出張で家を空けるから、自分で家事をしてくれ。食費と雑費はまとめて封筒に入れておくからそこからつかってくれ。足りなかったら追加で送るから、その時に連絡くれ』

 書置きの下の茶封筒を確認する。諭吉が三枚、高校生が一週間で使い切れる額ではないだろう。とはいえ買い足さなくてはいけないものもある。手持ちが多いに越したことはない。
 母さんが亡くなってから男手一人で俺を育ててくれた。俺が身の回りのことをできるようになったころには出張に行くことが増え、家でゆっくり過ごしていることが滅多にないのが父さんだ。息子としてはいつ倒れるか心配になる。

 諭吉を財布に入れていると、さらに一枚メモ紙が落ちてきた。
 二つ折りの紙を開く。

『女の子を連れ込んでもいいが、後始末と使用後のk……』

 最後まで読まずに粉々に破り捨て、ゴミ箱へと放り込む。
 前言撤回、やっぱ父さんを心配する必要はなさそうだ。



 平日のうちに家の消耗品がいくつかそこを突いていたため、重たい足を動かして家を出る。スマホのメモに買うものを書き込み、全部をまとめて買うことができる大きなショッピングモールへ。
 やはり休日なだけあって私服の学生や家族連れが多く、ぼっちの俺は浮いてるんじゃないかと思うくらい周りに人が多い。照りつける太陽も相まって不愉快さを感じる。
 必要なもの以外に特に興味があるわけではないのでひとまず買い物を済ませることにした。

「洗剤、食材、電池に……」

 食品フロアでスマホのメモを確認する。見落としは無く、会計を済ませるためにレジへと向かう。
 買ったものを袋へ詰めながら時計の針を確認すると、ちょうど長針と短針が一つに交わっており、周りの人々も昼食のために移動していた。
 俺も空腹ではあるが、家族連れの中に混ざって食事をする気にはならない。
 踵を返して出口へ向かおうとすると、視界の端に銀の髪が揺れた。

 自然と鼓動が早まる。

 見たことあるその姿に、今すぐ声をかけたいと思った。

 だが、彼女の隣にはもう一人別の少女がいるのが見える。二人の様子はまさに親友と呼べるもので。俺がその光景を汚してはいけないものに感じてしまう。

 彼女達の視界に入らぬようにそっと人混みに紛れる。だが次の瞬間、足元の何かに躓き、勢いのままに手をつく。近くの人々は驚愕し、それは視界から消していた彼女達にも伝わる。
 なんでもないですと返し立ち上がると、小さな声で名前を呼ばれる。

「奏汰?」

 呼ばれた方へと向き直すと、そこには長い銀の髪の少女。そしてその隣には茶髪の派手な少女。

「やぁ友希那、奇遇だね」

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