第十四話
「な、な、な、な、な………」
将和は四国から戻り芥川山城で長慶に報告に参ったが、長慶は将和の傍らにいる小少将に目を見開いていた。それは居並んだ一存や長逸達も同様である。
「兄様……そ、その者は……」
「細川真之の母、小少将でございます」
震える指を指す長慶に小少将は頭を下げて爆弾を投下する。
「人質として将和殿の傍らにおりまする」
「か、傍らに!?」
「はい」
目を見開く長慶に小少将は微笑むが横からそれを見る将和は溜め息を吐いていた。
(めちゃくちゃ煽ってるし……皆の動揺も凄まじいな……)
久秀は扇子で口元を隠して笑っているように見えた。だが、袈裟の下では左拳を強く握り締めていたりする。
「そういうわけにございますので今後ともよろしくお願いします」
そう言う小少将だった。多少の混乱がありつつも軍議が開催された。
「尾張の織田信長が美濃三人衆を味方に付ける事に成功し西美濃はほぼ織田家の手中になった」
「うつけと思っていたが……将兄の言う通りになってきたな」
『………』
一存の呟きに、皆は黙り将和に視線を向けるが当の将和本人はのほほんと茶を飲んでいた。
「……終わった事を今更あれこれ言うのは仕方ない。ならば次は最善の策を取れば良い」
茶菓子を食べる将和の姿に長慶らは安心したとばかりに深い安堵の息を吐いたのであった。その様子に久秀は口元を扇子で隠しながら小さく舌打ちをした。
(将和殿の様子見しか出来ないのかしら……)
とりあえず信貴山城に戻ったら平蜘蛛を眺めてそのイライラを落ち着こうと思う久秀である。
「そこでだ長慶……俺は二正面作戦を具申する」
「二正面作戦だと?」
将和の具申に長慶達はざわめきだす。それを尻目に将和は日本の地図を拡げた。
「即ち西と東に兵を分ける」
「西と東に……?」
「あぁ」
将和はそう言って扇子を播磨と但馬にトントンと指す。
「西は播磨と但馬。そして東は……」
そう言って指したのは近江と越前だった。
「近江と越前だ」
「近江と越前……六角・浅井は元より朝倉も敵にすると? 朝倉は宗滴亡き後は北の一向衆に手を焼くと聞くが……」
「浅井を攻撃すれば朝倉も浅井に協力しようとするからな。ついでに叩くしかあるまい」
「ですが二正面作戦となると兵が……」
「心配するな。西の攻略は今まで通りの農民兵主体で行え。東は常備兵でやる」
「東を常備兵で侵攻すると?」
「あぁ、そろそろ良い具合になっているからな」
三ヶ所に城下町を形成し常備兵を引き入れている三好家、この時常備兵は総勢一万二千まで膨れ上がっていた。
「俺が言い出しっぺだからな、東をやらせてもらいたい」
「東を……か。織田への警戒も含めてか兄様?」
「まぁそう言うこったな」
長慶の言葉に将和は頷く。
「……分かった。東は兄様に任せよう」
「御英断……感謝する」
将和はそう言って長慶に頭を下げるのであった。そしてその日の夜半……長慶達はまた集まっていた。
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