ハーメルン
『三好in戦極姫』
第十九話





敗走した義輝らの軍勢は中尾城に立て籠り徹底抗戦の構えを見せていた。そのため将和は京へ入城する事を止めて勝竜寺城に入城して義輝の出方を見るのである。

「義輝は逃げると思うわよ」

 矢を二の腕に受けた治療中、久秀は将和に言うが将和もそう思っていた。

「まぁそうなるな。だが義輝が逃げる事で包囲網も瓦解する確率は高くなる」
「それに期待するしかないわね」

 だが思わぬところから声が掛かるのである。

「義輝と和睦せよ……と?」
「左様でおじゃる」

 勝竜寺城に入城してから数日後、京から来たのは関白二条晴良だった。

「京に火の手が及ぶかもしれないという御懸念でしょうがそれには……」
「畏き所からの要請……でもおじゃるか?」
「………」

 晴良の言葉に将和は固まった。つまり和睦はーー。

「畏き所も望んでいると?」
「如何にも」

 将和の問いに晴良は頷く。

「将軍が今潰れるのは帝も望んではおらんのじゃよ……それとも……三好家が今、成り代わるかの?」
「………」

 今はその余裕はなかった。将和としても何れは……と思案していたのだが晴良のは早かったのである。

「……分かりました。長慶と相談をして直ぐにでも返事を出しましょう」
「ホホホ、頼みますぞ」

 将和の方針は直ぐに決まり長慶に和睦の話が伝えられるのである。

「……堪忍やで三好はん」

 勝竜寺城から京へ戻る最中、晴良はポツリと呟く。

(三好包囲網の中には叡山の僧兵も含まれていた……もしこの僧兵が後白河の帝と同じ事をすれば京の都は混乱を極めてしまう……それだけは避けなければならないのでおじゃる)

 そう、帝は僧兵による都侵攻を警戒したのだ。有り得ないかもしれない、だが絶対ではないのである。

(済まぬでおじゃる)

 そう心の中で謝る晴良である。数日後、京の二条晴良の屋敷にて義輝との和睦が結ばれる。
 長慶も本願寺を包囲していたが本願寺側も「義輝が和睦するなら……」と和睦が成立し成立後に急いで駆け付けたのである。

「ではこれにて和睦が成立したでおじゃる」
『………』

 晴良はにこやかに告げるが義輝はずっと将和を見ていた。それを見た長慶も義輝を見て警戒している。

「兄様、早く行きましょう」
「ん」

 将和は長慶に急かされる形で場を後にするが廊下に出たところで義輝に呼び止められた。

「四の五は言わん。将和、妾の家臣にならぬか? そちが居れば室町の幕府は再び再興が出来ようと思うのじゃ」
「義輝様……ッ」

 義輝の言葉に長慶は将和の前に立とうとするが義輝の殺気に一瞬、すくんでしまう。

「控えろ。妾は今、三好将和と話をしているのじゃ」

 低く誰にも伝わる声でそう告げる義輝に長慶は何も言えなかった。

「どうじゃろう将和? 何なら……妾を嫁にしても良いぞ?」
「なァ!?」

 途端に頬を紅く染める義輝に長慶は驚愕の表情をする。

「将軍の妾に対しても遠慮なく戦い手傷を負わせた……妾はそのような男は好きじゃ」

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