“紅葉”の目覚め 2
「ひなた、大丈夫か?」
「はい……」
持ってきたリュックが一杯になるほど詰め込んだ本を、ひなたがよたよたと歩きながら運ぶ。
若葉が自分が持つことを勧めたのだが、万が一に備え動ける者が万全な状態で、とひなたに諭され渋々諦めた。
結果はこの上なく上々だった。
ただ気掛かりなのは、ひなたが本に目を通した際に何やら深刻そうな顔をしたこと。それがモミジの家に有ったのだから、彼に関する事なのだろうとは直ぐに察しがついた。
帰ろうと“神前の間”から出、来た道を戻ろうとして――奥の突き当たりに何か扉があるのが目に入った。ひなたを見れば、此方の心中を察したのかこくりと頷く。
リュックを外し、床に一旦置いて扉へと慎重に近付く。何者かの気配は消えない。どんな理由があって姿を現さず観察しているのか分からないが、そのつもりなら抜刀する心決めだ。
ふと見ると、扉の面に何か文字が書かれてあるのが目に入った。
「“ヒトガタ”の間……?」
歪なカタカナで書かれたその文字を若葉が声に出して読む。その言葉の意味が分からずにひなたに助言を求めようとして、
思わず息を飲んだ。
「……こ、れがっ、これが自分の子供に対する行為なのですか……っ!」
長年ひなたと過ごしてきたが、こんなにも感情を表しているの彼女を見たのは初めてだった。
激怒、憤怒、およそ“怒り”という感情を詰め込んだその表情は、感情が昂りすぎてポロポロと目から涙を流している。
思わず彼女の肩に手を貸せば、ひなたは若葉にすがりつく様に身を寄せ涙を流した。
少し時間を置いて、落ち着いてきたひなたを気遣いながら若葉が問う。
「あの“ヒトガタ”とは、一体何なんだ?」
「……あれは、“ヒトガタ”というのは通称漢字でこう書きます」
泣き止んだひなたが、目を軽く腫らしながら空中に指で字を示す。
“人形” と
「……それは、ニンギョウとも読めるが?」
「えぇ、これがこの“降霊術”の恐ろしい所であり、肝と言える所ですが、説明には長くなるので話の続きは帰ってからにしましょう」
「む、そうだな」
正直、直ぐに理解出来る自信がない。
言いながら、部屋に入るためにドアノブへと手をかける。特に抵抗もなく開いたそこからは、また違った意味で目を開く光景だった。
幼児用、小学生低学年用の知育玩具。
風呂、トイレ、ダイニング等の生活空間。
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