“紅葉”の目覚め 5
「せいっ、やぁぁあ!!」
鞭が唸る。まるでそれが意思を持ったかの様に振る舞う様は、白鳥歌野という少女が可憐に鞭を扱うのに対し、打ち抜かれるバーテックス達は嵐にでも会ったような有り様だった。
バーテックスを蹴散らし、息を吐く間もなく聞こえた不意の風切り音。自身の胴体を貫く巨大な針――の映像。
考えるよりも先に身体を伏せ、頭すれすれを凶器が通過したのを確認してから跳躍、大きく距離を取った。
「……。さそり、かしら?」
初めてその目で見る融合体は、普段から見慣れたバーテックス達とは一際異質な物に感じた。
まずは大きさ。20~30メートルはあるだろうか。
特徴的なのはその尻尾。傍目から見ても鋭利なそれは、当たれば無事ですまないのが見て分かる。
ゆらゆらと揺れる尻尾に気を配りつつも、不意打ちを取られないよう周囲へも警戒を怠らない。
先程から感じる、バーテックスとは違う気配を間近に感じつつも歌野はそれを寧ろ受け入れていた。
融合体を援護するかの様に、バーテックスが迫る。そんな光景を、まるで他人事の様な涼しい表情で眺めていた。
「何時も諏訪に居た子かしら。貴方は味方で良いのよね?」
“――。”
攻撃を見ずに避ける。相手の攻めてくるコースから身を避け、その代わりと鞭の連打を食らわせる。
「そう、ありがとう。しんどくなったら何時でも逃げてちょうだい」
“――!!”
「逃げないって? それはそれは、どうも失礼しました」
歌野から笑い声が上がる。友人と話すかの様に、楽しげに。
周囲の激闘とは場違いな雰囲気の中、突如空気が一変した。
「……あれは何かしら」
中空に浮かぶ、鮮やかで大きな紅葉。薄暗くなってきた空で自己を主張するかの如く、その輝きは諏訪の大地を照らしていた。
バーテックス達の動きも変わる。先程までの忙しい動きを止め、空に浮かぶ紅葉を目を奪われた様に眺めていた。
その不気味な光景に、歌野は戦場の転換を見出だした。周囲はバーテックスに囲まれたままだ、この状況を変えるならば今しかない。
「っ?!」
動き出そうとした瞬間、見えた映像に思わず動きが止まる。撤退が失敗したものではない。
「ちょ、そっちが退くの?!」
歌野が見た映像を裏付けるように、周囲に居たバーテックスが一目散に空に浮かぶ紅葉の元へと移動を始めた。その中には融合体も含まれており、あまりの事に歌野の判断も遅れてしまう。
待て、と追いかけようとしたが、かくりと力が抜けた足に追随して身体も地面へと転ぶ。直ぐに立ち上がろうとすれば、疲労による筋肉の弛緩が起きていた。
申し訳なさそうに、傍らの気配が薄れていく。なるほど、さっきのあの力はこの子が原因だったのか、と歌野は乱れた思考のなか理解した。
「うたのん!!」
「歌野おねーちゃん!」
閉じられたシェルターから水都が慌てて飛び出してきた。座り込む歌野に肩を貸しつつ、シェルターへと誘導する。
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